上野:私も睾丸が腫れてきておかしいなとは思っていましたが、それががんだというイメージはまったくなかったんです。大学病院で医師からまず「腫瘍ができていますね」と言われ、「残念ですが、悪性の可能性が高いです」と。「悪性腫瘍ですか、それってがんってことですか?」と尋ねると、「そうです」という答えが返ってきて、それが告知でした。私も粕谷さんと同じように「この人何を言っているんだろう」と思いましたね。とにかく元気だったので、がん患者だということが受け入れられない。普通に診察室に入ったのに部屋を出たらがん患者になっていた、というような不思議な気持ちでした。告知後は歩いていてもフワフワして、地に足がついていないってこういうことなんだと実感しました。



粕谷:あまりいい告知の仕方ではなかった?

上野:いえ、いきなり「あなたはがんです」と言うのではなく、こちらのほうから聞き、それに対して肯定で答えるという形で、ワンクッション置いて告知してくれたのは、ありがたかったです。明後日には入院、その後手術と言ったのを「いや、明後日には手術をしたいから明日、入院を」と言い直したほどの緊急性がある中で、主治医はこちらの反応を見ながら様子を見ながら話してくれたのだろうと思いました。後から考えてみれば、ですが。粕谷さんへの告知はどうでしたか?

粕谷:突き落とされましたよ。ただそのまま緊急入院になって、いったん病院に入ると検査だのなんだの忙しくて、あまり落ち込んだり悩んだりする暇がありませんでした。根が明るいから「よし、負けないぞ!」と切り替えるのも早かったですね。

■「治療の選択」

上野:根が明るいのは昔からですよね。入院してすぐに治療が始まったんですか?

粕谷:実はそのとき肺炎を起こしていて、そこからさらにサイトメガウイルスというウイルスに感染し危険な状態になっていました。集中治療室(ICU)に入りました。家族が呼ばれて、口からの挿管で人工呼吸器をつけるか聞かれたそうです。妻から私は説明を受けましたが私はそれを拒否し、空気圧の高い空気がマスクから入る呼吸器にしてもらいました。医師からは「この呼吸器が合う人は少ないのでダメだったら挿管します」といわれましたが、これが幸いにも私には合って改善していきました。
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粕谷さんが迫られた難しい選択とは?