口からは絶食状態で栄養は点滴からだったので、9日間ICUにいて体重は9キロ落ちました。私は「究極のダイエットだった」と周囲に言っています。肺炎の治療を優先せざるを得なくなり、良くなってから白血病の治療が始まりました。

 当初、主治医から「骨髄移植しかない」と言われましてね。白血球の型(HLA)が適合する必要がありますが、適合する可能性が高い兄弟は高齢の兄しかいなくて、ドナーになってもらうことはできません。骨髄バンクに登録したところ、適合している人が13人見つかりました。そんなにいるのかと思ったら、主治医によるとごく少ないんだそうです。適合した人に移植コーディネーターが一件一件ドナーになってくれるかどうか意思確認をしていくわけですが、ドナー登録後に病気になるなど事情が変わる人が少なくない。100人適合者がいれば数人は大丈夫なことが多いけれど、13人だと厳しいと。

 その一方で、主治医が「移植をともなわないポナチニブ(商品名アイクルシグ)という新薬がある」と情報提供をしてくれたんです。しかも私がかかっているフィラデルフィア染色体プラスという白血病のタイプにとくに効果があって、アメリカで行われた臨床試験では34例中31例が寛解し、2016年の11月に厚生労働省の承認を受けて発売されたというじゃないですか。ただし日本では症例がほとんどなくて、東大病院で治療を受けた患者さんはいないと言われました。

上野:うーん、それは難しい選択ですね。

粕谷:私は骨髄移植に対する抵抗感が強かったんですね。以前、主治医から骨髄移植をすると免疫力が一年間は下がるので感染には注意しなければならないと説明され、ずぼらな私にできるかなと思っていました。ならば新薬が34例だけとはいえ90%くらいうまくいって臨床試験を乗り越えたというなら、そちらに賭けようかと。

上野:ご家族には相談なさったのですか?

粕谷:自分の中である程度決めてから、妻と3人の子どもたちに「新薬で頑張ってみたい」と話しました。全員が「応援するから」と背中を押してくれました。


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治療に不安を感じなかった理由とは?