上野:新薬って怖い面もありますね。病院側としても第一号の患者さんだから気を使ったでしょう。



粕谷:心臓や血管、目などさまざまな組織に副作用が起こる可能性があるので、関連する診療科のスタッフがチームを組み、治療がスタートしました。スタートしたときはアメリカで行われた臨床試験でうまくいった人たちが3年目に入ったばかりの時でしたから、私も4年は生きられるかなと。主治医をはじめ医療チームの方々からも、「そのあとの5年10年の生存実績を作っていくのは粕谷さんですよ」と励ましてもらいました。

上野:根が明るいとはいえ、悪い方にいくのではないかと思うことはなかったですか?

粕谷:治療に使った新薬に関する小冊子は今も常に持ち歩いていますが、副作用のところに心筋梗塞とか脳梗塞とか、死んでしまうようなものがズラリと並んでいるんですよ。治療に入る前にこうしたリスクについてもしっかり説明はありましたが、そんなに不安は感じませんでした。不安を感じずに済んだのは、主治医に恵まれたことが大きいでしょうね。主治医の言葉や行動を見ていて「この人は信用できるな」と感じていたので、彼が言うならついていこうと思えたんです。妄信的についていくのではなくて、理論的に話をし、納得して治療を進めていくことができました。

上野:私は治療前の医師からのリスクの説明は、結構しんどかったです。治療でこんな効果があるという説明は短いのに、リスクはわずかな可能性であっても全部説明するから長いんですよね。これから治療に向かおうというときに、もしかしたら命にかかわるかもしれないという副作用や後遺症の話をされると、そのわずかな可能性に自分が入ってしまうような気がして気持ちが萎えていきました。リスクは必ず説明しなければなりませんし、二回目三回目になって慣れてくると、誠実にていねいに説明してくれているんだなと、いいほうに捉えられるようになりますが。粕谷さんの場合、いい主治医に恵まれたということは、あまり病院選びの苦労もなかったわけですね。


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治療でとても大切なこととは?