柳澤幸雄(やなぎさわ・ゆきお)/1947年生まれ。東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て2011年より現職。自身も男の子を育て、小学生から大学院生まで教えた経験を持つ(撮影/工藤隆太郎)
柳澤幸雄(やなぎさわ・ゆきお)/1947年生まれ。東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年、システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て2011年より現職。自身も男の子を育て、小学生から大学院生まで教えた経験を持つ(撮影/工藤隆太郎)

 子どもの数が減ったことで、一人の子どもにかける親の期待は高まっています。東大合格者数37年連続日本一の開成中学・高校の柳沢幸雄校長は、著書『男の子を伸ばす母親が10歳までにしていること』で、子どもの能力を伸ばすには、子どもの特性を観察し、それを「引き出す」ことが大切だと述べています。男の子を伸ばすポイントについて、お話をうかがいました。

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(1)男の子は多動で当たり前!?

 男の子を育てるお母さんの悩みの一つに「飽きっぽさ」があります。おもちゃで遊んでたかと思えばテレビを見はじめ、テレビを見ていると思ったら、外に遊びに行くと言い出す。落ち着いて絵をかいたり人形遊びする同世代の女の子と比べると、「どうして一つのことに集中できないんだろう」と不安になるかもしれません。

 しかし、男の子が飽きっぽく次々と興味が移り変わるのは、集中力がないのではなく、好奇心が旺盛なだけなのです。そもそも、太古の昔、男性は狩りに出て獲物を取るのが仕事でした。そういう生活の中では、動くものに興味を持ったり、あちこち動き回ることが必要とされました。その特性が男の子には備わっているのです。

 しかし、本当に興味があるものと出会った時、男の子はものすごい集中力を発揮します。受験勉強も、女の子はコツコツと積み重ねますが、男の子はやる気スイッチが入ったときに、3時間ぶっ通しというように集中します。また、ゲームならご飯も食べずに1日中できるというのも男の子ならではでしょう。

「男の子は多動で当たり前」と考えれば、子育てはぐんと楽になるはずです。

(2)子どもは垂直に比較、水平に認識する

「うちは◯◯ちゃんよりも遅れている」「クラスの友達は上手に▽▽ができるのに……」というように、周囲とわが子を比較して嘆くお母さんがいます。

 しかし、子どもは一人一人個性があり、成長の速度には差がありますから、同世代というだけで比べるのは乱暴すぎますし、無意味です。さらに、そのことで子どもが自信を無くすようになったら、それこそ大変。子どもを伸ばすには、けなしたり嘆いたりするのではなく、「ほめる」ことこそが重要なのです。

 そして、ほめるときには「結果」でなく、「経過」を重視します。

 たとえば、テストで満点を取った、徒競走で一位になった、といった時しかほめないと、どうしても回数が減ってしまいます。また、そうしたほめ方は「じゃあ、百点とればいいんだろ」「とにかく勝てばいいんだろ」と、結果がすべてなんだと子どもに思いこませてしまいます。

 しかし、「前より丁寧に字が書けるようになったね」「最近、ほうきの使い方がうまくなったね」といった、経過に重点を置いたほめ方は違います。

 子どもの成長を過去と現在で比較し評価しているので、いくらでもほめるポイントが見つかります。その子自身の中の成長を比較することが、子どもの自己肯定感を育てるのに大変重要なのです。

 とはいえ、わが子だけを見つめていると独りよがりの子育てになってしまうので、時には「ほかのお母さんはどういう子育てをしているんだろう」「周りの人はこんなときどうしているんだろう」というように周囲を見回して認識します。比較ではなく認識する。これを「水平認識」と呼んでいます。

「垂直比較」「水平認識」を基本に子育てすると、親子とも気持ちが楽になり、また、子どもの能力を伸ばすことができるのです。

(3)父親の悪口を言わない

 できるだけ育児に参加してほしいものの、仕事が忙しく父親不在の家も多いでしょう。そんな時、子どもの前で愚痴っぽく父親の悪口を言ってしまうことがありますが、絶対にだめです。なぜなら、男の子にとって父親は「自分が大人になったらどんな男性になるか」という基本形です。そういう存在を自分が大好きなお母さんに否定されたら、将来に不安を抱いてしまうからです。

 子どもと触れ合う時間が少ないうえに母親に悪口まで言われたら、父親の存在感はなくなってしまいます。「お父さんが働いてくれるから、ご飯が食べられるんだよ」「お父さんは私たちのために一生懸命仕事をしているんだよ」といった声かけが大切。

 これはもちろん、父親にも言えることです。子どもの前で母親の悪口を言ってはいけません。子どもにとって、両親は等しく大切な存在だからこそ、夫婦仲良く尊敬しあう姿が理想なのです。

 また、悪口といえば、学校や先生の悪口も厳禁です。保育園や幼稚園の悪口を子どもが聞けば「どうして、そんな悪いところに僕を通わせるの?」と思うでしょう。また、学校の先生の悪口を聞けば、その先生の言うことは聞かなくなりますし、バカにするようになります。

 つまり、誰かの悪口を子どもに聞かせることは、ろくな結果を生まないのです。(取材・構成/松島恵利子)