武田:えらくずれますね(笑)。

小田嶋:解説者が、イニエスタのパス成功率が高いという話をしていたんですけど、その昔、小野伸二という、似たようなポジションにいたすごくうまい選手も、パス成功率がすごく高くて、でも、それに対して、ミスター・レッズの福田正博さんが、「伸二はチャレンジしてない。あんなにパス成功率が高くちゃダメだ。通らないパスも出さないとダメだよ」と。慎重で、通ると思うパスしか出さない完全主義者だけど、あのポジションにいたら、たとえ可能性は五分でも、万一通れば1点みたいなパスも出さないとダメなんだよ、と苦言を呈していたのを思い出したんです。だから、イニエスタのパス成功率が高い、高いと褒めているけど、それは必ずしもいいことなのか、と。

 同じように、ナンシー関も、すごくパス成功率が高くて、通らないパスを当てずっぽうで打つ人ではなかった。でも、生きていれば、もうパスの通らない時代が来たかもしれない。そのときに、「じゃあ、当てずっぽうでこっちの仕事をやってみようか」とか、「自信ないけど、このへん書いてみようか」ということでやってみたら、力量的には全然できた人だから。

武田:小田嶋さんも、様々な方向の原稿を書かれてきたのに、今じゃ世間的には、「安倍政権に物申す書き手」みたいな感じになっていますしね(笑)。

小田嶋:私だって、政治のことを書くようになったのは、21世紀に入ってからですよ。ライター生活前半の20年ぐらいは、くそノンポリでしたからね。でも、21世紀になって、こういうふうになってくると、そういうところで書かないと、なかなか書く場所もないよ、てなことになったわけで。

武田:ナンシーさんは松本人志の才能を特別買っていたけれど、いま、『ワイドナショー』での松本人志の立ち振る舞いを考えないわけにはいかない。すっかり、スムーズに、力の強い側につく人になりました。

小田嶋:そう考えると、やっぱり政治的な状況にも触れざるを得ないですよね。

武田:安倍首相が『ワイドナショー』に来たときの過剰な歓迎っぷり、これ、絶対にナンシーさん、見逃さなかったと思うんですよね。

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ナンシーさんが亡くなったのが2002年…