その話は、板金塗装ができるスタッフもいる神姫商工へ。当初はドイツなどから輸入することも考えたが、輸送費の高さなどにより断念。一時はあきらめかけたが、神姫バスグループの企業理念は「誠実に、果敢に、おもしろく」。上層部から「頑張ってやってみい」と発破をかけられた馬躰さんらは、16年9月、社内の精鋭7人を集めて自作に乗り出した。

「振り返ると、苦労しかしていない」。馬躰さんと藤井さんが苦笑する。「ビアバイクって何?」という状態から始まり、インターネットでカタカナ、ローマ字検索を駆使して情報を集めた。大阪の企業がビアバイクを自作したと聞けば、訪ねて実物を見せてもらった。そうして少しずつ、イメージを膨らませていった。

 軽自動車のタイヤで足回りを作り、既製品や手作りの部品を積み上げていった。メンテナンスのことを考え、部品の数はあえて抑えた。ペダルをこぐ力をどうやって車輪に伝えるかなど試行錯誤しながら、約1年かけて完成させ、17年9月の神姫バスグループの創立90周年の式典でお披露目した。この時は、ビアバイクにビアサーバーを積み、出席者にビールを振る舞ったという。

 それから約1年、地域のイベントなど約10カ所に貸し出した。藤井さんによると、使われ方は、動かさずに固定するパターンと動かすパターン、2通りあるという。前者の場合は、飲食や休憩をする場所として、後者の場合は遊園地の乗り物のように敷地内を走らせる。

 実は、このビアバイク、車と自転車とを組み合わせた乗り物でありながら、その大きさゆえ、公道を走らせることができないのだ。「いろいろな人に見てもらいたい」という気持ちはあるが、イベント会場まで運ぶにも人手がいるし、安全性も確保しなければならない。走らせて使うには広い敷地が必要なため、「(ジュースを含め)何かを飲みながら走る」という使い方がなかなかできない。

「(ビアバイクを)作ることが当初の目標だったので、完成でゴールしてしまった感じではある」と藤井さん。「いつでも出動できるように整備しているのですが、シーズンオフに入ってしまった感もありますし……」(馬躰さん)

 大人数で走らせる不思議な楽しさを体験してもらえないのは、なんだか寂しい。馬躰さんは「貸し出すと喜んでもらえますし、インバウンドにも受けると思います」と話すが、なんとかして動かす楽しさを体験してもらう方法はないものか。(ライター・南文枝)