そしてVTRに入る。一軒家の周辺にある集落から取材を始めて、ディレクターが近隣住民に聞き込みを行う。一軒家の画像を見せて、その住人に心当たりはないか尋ねる。何かしら情報が得られたら、それをさらに深く掘り下げていく。ある程度の情報が集まったところで、満を持して現場に向かう。一軒家に行くためには崖すれすれの舗装されていない細い山道などを通ることも多い。車載カメラがその道中を映し出し、臨場感たっぷりに取材の過程が示される。そして、建物を発見すると、ドローンを使ったダイナミックな空撮映像で建物の全貌が明かされる。

 ここから後半パートが始まる。家を訪ねて、住人に話を聞こうとする。取材の許可が得られたら、そこから家の中や敷地を案内してもらうことになる。どんな家に住んでいて、どんな生活を送っているのか。そもそもなぜそこに住んでいるのか。謎だった部分がここですべて解き明かされることになる。一軒家をミステリーの題材として、前半と後半の二部構成で見せているのがこの番組の最大の特徴である。

 視聴者の立場で見ると、ここには単純な「謎を解き明かす楽しみ」がある。『池の水ぜんぶ抜く大作戦』にも、池の水を抜いたらそこにどんな生物が住んでいるのかが明らかになる、というミステリーの要素があった。謎が提示されると、人は本能的に興味をかきたてられるものだ。

 しかも、それだけではない。「人里離れた田舎でのんびり暮らす」という悠々自適のライフスタイルに憧れを持っている人は多い。しかし、住み慣れた場所を離れて実際に僻地で暮らしてみる勇気はない、という人がほとんどだろう。そういう人にとって、一軒家で好きなことに打ち込んで暮らしている人の日常は興味深いものだ。

 日本は同調圧力が強い風土である。他人の顔色をうかがい、他人に合わせて足並みをそろえようとするのが一般的な感覚だ。そんな文化の中で、人里離れた一軒家で暮らす人は、マイペースで自由に生きているように見える。ポツンと建った一軒家は自由と独立の象徴でもあるのだ。

 謎解きの面白さがあり、憧れの田舎暮らしを覗くという楽しみもあり、自由に生きる人間のドキュメンタリーとしての魅力もある。『ポツンと一軒家』は、一見するとシンプルだが、実はヒットするための要素をバランス良く備えた優れた企画なのである。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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