中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに
中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに
初デートというのは緊張する(※写真はイメージ)
初デートというのは緊張する(※写真はイメージ)

 初デートというのはこんな歳になってもやはり緊張する。しかも、相手と会うのは2回目。初対面の日は暗いバーで酔っぱらって話していたし、正直、顔をちゃんと見分けられるかも怪しいレベルだ。脳科学者に教えてもらったのだが私には軽い「相貌失認」(失顔症ともいい、人の顔が覚えられない脳の疾患で、人口の1%位いるらしい)の傾向があるようで、他人の顔をなかなか認識できない。同級生や同僚であっても、思いがけない場所で会うと誰だかわからなくなるくらいだ。30代のはじめに編集部を異動して間もない頃、執筆者である高齢のご夫妻に夕食に招かれたので料亭に出かけたら、そこに上役であるK氏によく似た方が座っていた。一瞬「Kさんに似てる」とは思ったのだが、ご夫妻が「こちら新潮社の中瀬ゆかりさんよ」とその方に紹介するので、反射的に「はじめまして。中瀬と申します。よろしくお願いします」と名刺を差し出した。するとその方は「ああそう」とにこやかに名刺をうけとって胸ポケットにしまい、「よろしく」とのたまうものの、一向に名刺を取り出す気配もないし、ご夫妻も彼の名前や属性を紹介してくださらない。どこの誰だろうと訝りながらも、しばらく4人で和気藹々と食事をしてご夫妻の近況や世間話をしていていたら、30分ほどして奥様が「Kさんはどう?」とその上司の名前をその方に呼びかけた。驚愕してよくよく顔を見たら、やはり、さきほどまで同じ編集部のソファで新聞を読んでいたKさんではないか!私はひどい失態に顔から火が出る思いだったが、突っ込みのひとつも入れずに名刺を普通に黙って受け取っていたKさんもKさん。さすがは京都人!そんな過去もあるくらいだし、ほかにも枚挙にいとまがないくらい「やらかしている」過去を持つ女。少なくとも好ましいと感じた男性の顔くらいは覚えていたいものだが、はてさて……。

 新宿の映画館のチケット売り場の前で待ち合わせたのだが、向こうから声をかけられて、あわてて「あー、アニキ、久しぶりー!」とまるで最初からわかってたかのように取り繕う。前の印象は深夜の泥酔中のやんちゃ顔だったが、今日の彼は黒縁眼鏡もかけているし、ずいぶん雰囲気が違う。思ったより筋肉質で色が黒い。太陽の光が似合わない、夜のまなざしをした人だ。彼も心なしか緊張して見える。そりゃそうだ。仕事も違えば共通の知人はただ1人きりという8歳も年上の肥えたおばさんと初対面からたった2回目にしてはじめての2人きり。今更ながらの日光に照らされたジャバザハット並みのシルエットに、なんでこんなデブのおばさんデートに誘っちゃったんだろうオレ、などと後悔しているかもしれない。ここは年上の余裕で私がリードせねば、と思い直し、ドリンクを買う長蛇の列に並ぼうとしたその時、「上映時間も迫ってますし、間に合わないといけないから、外に出て自販機で買いましょう」と提案され、そのまま外へ連れ出された。小銭を出すのに手間取っていると、さすがは新宿、後ろにヤカラ感まるだしの首筋に刺青をした3人組が並び、「早くしろよオーラ」を投げつけている・・・因縁つけられたらヤダナ、と思ったその瞬間、アニキがくるっと振り向いて「すみませんねぇ!もたついちゃって」と満面の笑顔&大声で声をかけたら、3人組は「あ、どうぞごゆっくり!」と笑顔で答えて、なんだか和気藹々としたムードになっているではないか。アニキ……面白い奴!

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中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、 作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに。

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