――そんな背景があったんですね。

俳優が商品名を言うことで視聴者はハッとするのに、ナレーションに言わせようとするんです。もうどうしようもないなと思って、夜9時半から朝4時半までかけて、セリフを一字一句書き換えました。簡単ですよ。うちはトヨタでも日産でもないから、覚えてもらうためには何回も「ハズキルーペ」と言ってもらい、商品名を覚えてもらう。だって、びっくりするでしょう。「渡辺謙がルーペ?!」「菊川怜が、ハズキルーペ大好き?!」って。

――とにかく商品名だ、と。

その後、機能の説明に特化させる。「ハズキルーペ」と「機能説明」の2つで十分です。あとは「大好き」とか「すごい」で良い。でもね、すごいって言われたら、それはすごいでしょう。人間って理論的なところではなく、感情的なところで判断する人が多いんです。言っている人の熱意に押される。このCMの根幹って実はCMの最後のほう、14秒のところです。画面の右側で機能について流しながら、左側ではキャストが「大好き」と言っている。理屈だけをバーっと流すと人は目をそらしてしまうから、感情を入れることで気持ちが動くんです。

――最後の機能説明にはそういう意図があったんですね。

そうです。でも、僕も本業ではないし、ネタが尽きてしまいますから。趣味の映画や絵画から思い出しながら、常に次のCMを考えるので大変なんですよ。

(聞き手/AERA dot. 編集部・福井しほ)

■松村謙三(まつむら・けんぞう)
1958年生まれ。大阪府出身。成蹊大法学部卒業。プリヴェ企業再生グループ/Hazuki Company会長。大阪大学大学院法学研究科客員教授。大阪大学知的基盤総合センター客員教授を務める。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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