――イメージを変えたいと言うと、所属事務所は反対しませんでしたか。

知的なイメージが先行していたけれど、可愛らしい一面もある女性です。最初に、菊川さんが「渡辺謙さんと一緒にやるなら、何でもやります」と言ってくれました。それで、「僕、菊川さんのイメージを変えようと思っているんです」、「えっ、それが狙いなんですか?」なんてやり取りがあったんです。僕の狙いが当たりました。今、また菊川さんがすごい人気になっていますね。CMを見ながら、「ハズキルーペ大好き」って一緒にハートマークを作りながら真似をしている子どもも実際に見かけます。実はね、あのシーンもはじめは菊川さんが茶目っ気を出して、「頭の上でこうしましょうか」って大きなハートマークを作ってみせたんです。それを見た渡辺さんが「いやいや、そこはこうでしょう」と胸元で小さくハートを作ることになったんですよ。

――前回のCMも現在放映中のものも全て松村会長が手がけていると伺いました。

総監督やキャスティング、チーフスタイリスト、シナリオライターも全部僕です。実は、CMのテーマである「怒り」を最初に提案してくれたのは渡辺謙さんです。軽井沢の別荘でマネージャーを相手に何日もかけて、「怒り」をテーマに企画を考えて、箇条書きで僕に送ってくれました。こんなこと、普通ありえないでしょう。ここまでCMに本気で打ち込んでくれる俳優はいません。さすが、ハリウッドの名優さんだなと感動しました。そして、実際そのアイデアがものすごく面白かったので、すぐに広告会社のクリエイターに共有して「怒り」で考えてほしいと伝えました。

――もともとは渡辺謙さんのご発案だったんですね。

そうです。なのに、クリエイターから戻ってきた案には一つも「怒り」がテーマのものがなかったんです。「ミラノの駅から降りて……」とかばかりで。全然違うでしょう。うちの商品をいかに売るか考えるために来たはずなのに、どうしてスポンサーがやってくれと言っている案を無視して全く違う案を提案してくるのか、本当にびっくりしました。そこで、「仕方ないから、僕がやります」というのが真実です。

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最後の「大好き」に込めた意図