上部棚がせり出した「知の壁」ゾーンは妙に落ち着く(撮影/杉澤誠記)
上部棚がせり出した「知の壁」ゾーンは妙に落ち着く(撮影/杉澤誠記)

 KITのブランドネームを持つ石川県の金沢工業大は1965年に開学、2018年現在4学部12学科、約6500人が学ぶ理系の私立大学だ。「大学ランキング2019」(朝日新聞出版)では【就職率】【学長からの評価】【高校からの評価】ほかで上位にランクイン。基礎から面倒をみる学習支援制度や「夢考房」と呼ばれる学生のものづくりに特化したプロジェクトなど、先進的な取り組みが全国から注目を集めている。

【コペルニクス、ニュートン… “世界を変えた”金沢工業大学コレクションはこちら】

 さて、今回紹介するのは、図書館棟であるライブラリーセンター内の「工学の曙(あけぼの)文庫」にある稀覯(きこう)書のコレクションだ。稀覯書とは珍しい本のことで、古写本・古刊本・限定出版本などのため、現存数がきわめて少ないことが特徴。同文庫にはそんな工学に関するお宝本が約2000点も所蔵されている。グーテンベルクが活版印刷を発明した1400年代の書物もあるというから驚きだ。

 そのなかから選りすぐりをお披露目する「世界を変えた書物展 ―人類の知性を辿る旅―」が、9月24日まで東京・上野の森美術館で無料開催されている。展示される約130点のほとんどが洋書かつ初版本なので、学術的な価値だけでなく、その評価額も気になってしまう。
 
「もしコペルニクスが地動説を説かなければ、太陽は地球の周りを回り続けたかもしれません。(中略)彼らの発見を広く世に伝えた物が書物なのです」(同展チラシから)。――確かに、世紀の発見およびその偉業が後世まで残ったのは書物があってこそ。“世界を変えた”というタイトルは誇張表現ではないと妙に納得する。

 会場は「知の壁」「知の森」「知の繋がり」と名づけられたゾーンに分類される。本をデザインしたゲートをくぐり少し進むと薄暗い「知の壁」ゾーンだ。天井までびっしりと並べられた書物に圧倒される。ここのコンセプトは何だろう。会場構成・展示デザインを担当した建築学部の宮下智裕准教授に話を聞いた。

「本とはそもそも何か、その魅力をどう表現できるか、私の研究室20人の学生とゾーンごとに手分けして展示方法を考えました。『知の壁』は洞窟をイメージして近代の建築に関する美しい本を集めました。まずは知の探検者になった気分を味わってください」

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美しく展示する建築的技法