「本田さんが努力する姿勢や大切さ、フォア・ザ・チーム精神を植え付けることができたら、カンボジアの選手たちも変われる可能性はあるでしょう。僕のクラブから選ばれている21歳の若手選手も自発的に物事に取り組めるタイプ。そういう選手が本田さんからいい刺激を受けてくれればすごくいい。カンボジアでは日本人がリスペクトされていますから、十分可能だと思いますね」

 狩野氏も「カンボジアに来る指導者の成功例はカンボジア人の気質や文化などをしっかりと理解した上で戦略を練れる人。本田監督がそういうアプローチをすれば、短期間で結果を残せる可能性があると思います。カンボジアは内戦の影響で貧しかったこともあり、十分な教育を受けられず、自分たちの世界しか知らない分、それ以外のことを受け入れがたいところがありますが、世界的スターの本田が話すことは受け入れるのではないでしょうか。彼の取り組みが成功すれば、サッカーを取り巻く人々の投資が増えることもあり得る。そういう方向に進んでほしいです」とポジティブな見方をしている。

 彼らが言うように、本田の取り組み次第ではカンボジアサッカーがガラリと変化することもあり得るはず。実際、2015年11月当時の代表選手の数人も「日本で注目しているのは本田や香川(真司=ドルトムント)。彼らは憧れの選手」と目を輝かせていて、尊敬する人物からサッカーを直々に学べるのは至福の喜びだろう。本田自身も「カンボジア、シンガポールみたいな国が5年後、10年後、日本を脅かすようなレベルになるんじゃないかという危機感を、日本人として、選手として常に持っている」と話していただけに、そのアプローチが気になるところ。いずれにしても、全ての成り行きは本田の指揮官初陣となる10日のマレーシア戦にかかっていると言っても過言ではない。

 11月からは東南アジア選手権(スズキカップ)が開催されるので、そこが短期的なターゲットになる。本田がロシアワールドカップの日本代表の成功例を生かして短期間でチームを1つにできれば、カンボジア代表躍進の可能性もゼロではない。選手として百戦錬磨のキャリアを積み重ねてきた男がどんな改革を見せていくのか。ここからの動きが非常に興味深い。(文・元川悦子)