ただ、ここで中国勢にアクシデントが……。蘇炳添に次ぐ実力者としてリレーに出場する予定だった謝震業が右足首の負傷で欠場を表明したのだ。謝震業はこれまで200メートルが専門種目で、5月のゴールデングランプリ大阪で20秒16の中国記録を樹立したが、今季は3月の世界室内60メートルで決勝に進出して4位に入り、100メートルでも6月のフランスの大会で9秒97、その2週間後のスイスでも9秒98をマークし、100メートルで成績を伸ばしていただけに痛手となるだろう。

 山縣は、強敵の中国勢をこう見ている。

「ヨーロッパ遠征で練習量を落としたことで、スタートから中盤の感覚がすごく良くなってきた。今の中国勢が相手では今シーズンで一番の状態にしていかなければならないと思うが、技術の積み上げを再確認してもう少しペースアップできれば勝負になると思う」

 アジア大会は中国勢にとっても、これまでの大会とは違って重要なタイトルが懸かり、緊張感も高まる。日本勢が勝つためには、そんな相手の心の隙間を突く必要があるだろう。そのためにも予選や準決勝でしっかりと記録を出し、相手に「ミスは許されない」という気持ちを植え付けなければならない。そのうえで決勝は、相手の動きに惑わされずに勝負に徹するレースをすることが肝要だ。

 記録的には先行しているライバルたちに、ビッグゲームでの勝負に勝つこと。それができたときに、日本男子短距離は中国追撃の態勢が整うはずだ。(文・折山淑美)