バスやモノレールなどの公共交通機関が運休になると、学校が休校になる。特に子どもたちは朝起きたらまずテレビで気象情報を付け、休校を知らせるテロップが出ていないか確認し、休校になっていたら飛び跳ねて喜ぶということが多くの家庭で起きていると思う。仕事も自宅待機になることが多い。お籠り決定!となれば、準備していたお菓子を食べ、DVDを見たりトランプをしたり……。つまり直撃を受けても「被災」という感覚とはちょっと違っている。前日のレンタルビデオ店は大混雑し、陳列棚は空っぽ。不謹慎かもしれないが、ちょっとしたイベント感さえ漂う。沖縄の家はほとんどが台風に強い鉄筋コンクリート造で、毎年何度か台風が直撃するため住民も気象情報に敏感で対応に慣れているという理由もあるだろう。もちろん甚大な経済的被害は受けるが、記録的な台風が直撃しても人的被害は少なく「台風に強い県民」という自負があったりもする。

 筆保さんも2006年に台風観測のために訪れた石垣島で台風13号に遭遇し、地元の人たちの台風との付き合い方に驚いたという。

「電柱や街路樹が倒れ、ビニールハウスは壊れているし、車が横転して建物に突っ込んでいたりして甚大な被害でしたが、地元の方たちは家の中で酒を飲んだりして過ごしていて、まさに『ナンクルナイサー(なるようになるさ)』という対応でした。このような台風との付き合い方は見習うべきだと思いました。もちろん経済的な損失や予定を変更せざるを得なくなることはあるはずですが、何事も命あってのことです」

 この台風で被害の出方は様々な条件によって違うことも実感したという。石垣島よりも台風に近かった竹富島では、ほとんど被害が無かったのだ。

「竹富島は伝統的な平屋がほとんどで、瓦は漆喰で止められ、家の周りは石垣で囲われ非常に風に強い作りになっているのです。やはりその風土にあった住居が残ってきているのだと実感しました。いわば都市化は不自然な状態で、便利さと引き換えにリスクをもたらしていると言えます。しかし台風は津波や地震などの自然災害と違い、発生から接近までに数日のリードタイム(所要時間)があります。それをうまく使えば、命を守ることができるはずなのです」

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暴風域でも運行する地下鉄に驚き