約40分後、女子高校生と警察からの聞き取りを終えた上原は、自席に戻り、今度は女子高校生の母親に電話を入れた。

「娘さんを一時保護させてもらいました。しばらく保護することになるので、洋服などを持ってきてもらえないでしょうか」

 しかし、母親からの返事は、

「車がないから、行けない」
「こちらから一度担当ワーカーが行きますから。用意をお願いします」

 と上原は電話を切った。

 親とのやりとりに、苦労することは少なくない。生活保護世帯だったり、養育困難家庭だったり、精神的な疾患があったり、保護者自身がしんどさを抱えているケースが大半だ。いらだちや不安、不満が刃となって児童相談所に向けられる。その対応が、ワーカーたちの忙しさに拍車をかける。

 翌日、女子高校生の洋服や身の回りのものを取りに、担当のワーカーが母親のもとに向かった。

 その数日後、今度は母親が児童相談所に電話をしてきた。

「いま○○駅にいる。娘の携帯を解約したいから、いますぐ携帯を持ってきてほしい」

 担当ワーカーの加藤優子が丁寧な口調で「うかがうことはできません。児童相談所に来てもらえば対応できます」と伝えた。納得しない母親に何度も同じ言葉を繰り返した。

 その横では、ワーカーの山田愛が受話器を握って、懸命に話しかけていた。相手は、一時保護中の保育園児の母親だ。

「お母さん、めぐちゃんの髪を切ってもいいですか。とても長くなっていますから」

 子どもを預かる一時保護所で髪の毛を切ることを承諾してもらうためだ。子どもの様子を丁寧に説明し、納得してもらった。

 電話の後で、山田はため息を漏らした。

「めぐちゃんは、母親に暴力を振るわれて一時保護したんですけどね」

 気むずかしい親たちにはワーカーたちは特に気を遣って対応している。散髪や予防接種など、子どもにかかわることは手間がかかっても事前にこまめに連絡する。勝手に何かをやったとなって親との関係がこじれてしまえば、親は児童相談所の言うことに反発するだけになってしまうからだ。

 そうなってしまえば結局、子どものためにはならない。すべては子どものため、ワーカーたちは親にも気を配り、対応を続けている。