ギタリストの村治佳織が9月19日に、哀愁あるアルバムをリリースする。タイトルは『シネマ』。ニーノ・ロータの『ロミオとジュリエット』愛のテーマや『ゴッドファーザー』愛のテーマ、ヘンリー・マンシーニの「ムーン・リバー」(『ティファニーで朝食を』から」、エンニオ・モリコーネの『ニュー・シネマ・パラダイス』愛のテーマなど映画音楽の名曲が18曲、切なく響くギター演奏で収録されている。
「若いころの私ではできない。かといってベテランの域でもない。今の自分の音をそのまま収めたいと思って演奏したら、哀愁を感じるアルバムになりました。切なさを感じていただけたとすると、それはたぶん、音と音の“間”のせいだと思います。鳴っていない時間が、曲に、そしてアルバムに、哀愁をもたらしたのかもしれません。自分でも新鮮に感じています」
哀愁ただよう理由には演奏したギターにもある。15歳でCDデビューした村治にとって、『シネマ』は25周年記念アルバム。そこで、25年間に弾いた、つまりキャリアをともに歩いた4本のギターを持って録音会場のホールに入った。
「その中の1本、1859年製のトーレスがとても美しい余韻を聴かせてくれました」
アントニオ・デ・トーレスは18世紀のスペインのギターの名匠。かつて今よりもコンパクトだったクラシックギターを現在のスタンダードなサイズにしたと言われている。トーレスがボディを大きくしたことで、ギターの鳴りが豊かになった。村治が弾くのはトーレスがギター製作者として油が乗ってきた40代前半のギターだ。
「一音弾いたときの音の減衰がほかのギターと比べると微妙に長い。当初は『ゴッドファーザー』と『禁じられた遊び』の2曲をトーレスで演奏する予定でした。でも、所属するイギリスのレーベルのスタッフの希望もあって、このギターで10曲録音することになりました。音の余韻って、自分ではコントロールできません。ギターによるところが大きいんです。一度、イギリスの名ギタリスト、ジュリアン・ブリームのギターを弾かせていただいたことがあります。スペインのギター職人、ホセ・ルイス・ロマニリョスのつくったものでした。すると、それまでの私とはまったく違うビブラートができた。ジュリアンはビブラートの名手。ロマニリョスには、長い年月で彼の個性がしみ込んで、音が美しく震えるようになっていた。私のトーレスも、つくられて150年の間に多くのギタリストの演奏を吸収していることでしょう。ギターと私の個性のまじわりも楽しんでいただきたいですね」