普段は、毎月の縁日で法話を話しているという小池さん。YouTubeでの配信を決めたのは、知人でウェブ制作会社のゼネラルマネージャー、山端秀明さんから勧められたのがきっかけだ。

 当初は、仏教界を含めどのような反応があるのか不安もあったという。しかし、「墓じまいなどが増え、仏教は、以前よりも人々の生活から遠のいている気がします。仏教は亡くなった時のための教えだと思われている方も多いかもしれませんが、弘法大師様は、まさに『今、この苦しみ多き人生をいかに生きていくか』、そのための知恵を説かれています。私なりにその教えを多くの方に伝えたい」と法話の配信を決めた。

 動画は、山端さんやお寺のスタッフらの協力で制作。小池さんは、撮影日までに伝えたいことを決めて、原稿を作成する。撮影当日は、自然に話せるよう、参拝に来た人やスタッフらに前に座ってもらう。撮り直しはしないため、誤ったことや、不適切な表現をしないように気を付けているという。

 動画の配信を始めて1年。小池さんは「見てくださる方が徐々に増えてきて、『楽しみにしています』『いいお話をありがとう』などのお声を聞くとやりがいを感じます」。また、「『苦しみの人生をいかにして生きるか』という仏教の現実的な哲学や知恵は、どのような人にも届くのだという確信が得られました」

 動画の効果か、境内を歩いていると声をかけられることが増えた。「YouTubeを見て来ました」と小池さんを訪ねる参拝者もいるという。

 今後は、法話でどのようなことを伝えていくのか。「仏教が説いているのは物事のとらえ方です。同じ境遇でも、自分のとらえ方によって人は幸せにも不幸せにもなります。自分本位の考え方などが目につく今の時代こそ、『少欲知足』(欲張らず足ることを知る)や『施し』(分け与える)などの仏教の教えが必要だと考えています。世間の価値観に自分を当てはめるのではなく、自分の軸が作れるような、物事のとらえ方を伝えていきたい」(小池さん)

 ネットならではの気軽さ、距離の近さで、仏さまのありがたい教えは人々に届くのか。小池さんの奮闘に期待したい。(ライター・南文枝)