「一発屋芸人」というと世間ではネガティブなイメージがあるが、お笑い界の中ではそれほど低く見られているわけではない。なぜなら、たとえ一発だけだったとしても「当たった」という経験をしているのは特別なことだからだ。芸人を目指す人は数多くいるが、そのほとんどは一発も当てられずにこの世界から姿を消している。1つのキャラやフレーズが爆発的に流行して一時代を築いた人は、それだけで尊敬に値する存在なのだ。

 実際、ピークのときに比べればテレビに出る回数は減っているとしても、営業などの仕事で全国を回り、平均的なサラリーマンよりもはるかに高い収入を得ている「一発屋芸人」は数多く存在する。また、ブームが落ち着いてからにわかにCM出演の仕事が急増しているダンディ坂野、ハードゲイキャラから転身して正統派漫才師として『THE MANZAI』で決勝進出を果たしたレイザーラモンHGなど、新たな一面を見せて活躍をする人もいる。

「一発屋芸人」というテーマがテレビでたびたび取り上げられるようになったきっかけは、2009年に『アメトーーク!』で「最近の一発屋事情」という企画が行われたことだ。このとき、この企画のプレゼン役を務めていたのは有吉弘行である。当時、有吉は「あだ名芸」で見事に再ブレークを果たし、自ら「二発屋」を名乗っていた。有吉の仕切りで番組は盛り上がり、ここで視聴者は「一発屋芸人」を笑いものにするという楽しみに目覚めてしまった。

 その後、バラエティ番組では一発屋芸人に「ピーク時の最高月収」を聞くという企画がたびたび行われ、彼らはバカにしていい存在として扱われることが通例となった。

 しかし、そろそろ視聴者も気付かなければならない。一発屋芸人とは、弱肉強食、死屍累々のお笑い界で、間違いなく「勝ち組」に属する人たちである。芸人を志す人の99%は、何の結果も出せないまま消えていく「0発屋」なのだから。一発屋とは「一発を当てて消えてしまった人」ではなく、「ある時期に売れすぎてしまった人」なのだ。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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