ほかにも、10年連続で二桁勝利を目指していたのが、前年に途切れてしまっていた。それで、私自身も目標を失っていたこともあり「いつ引退してもいい」と考えていた。引退は、思いつきで決めたわけではありませんでした。

 いざ辞めたあとは、一応「引退後はどうしよう」と思うこともありました。食うためには、とりあえずいろいろやるしかないと思っていたところ、『プロ野球を10倍楽しく見る方法』が300万部のベストセラーに。野球解説者として生活できるようになりました。繰り返しになりますが、人生は不思議なものですね。崖っぷちになっても、この時も表舞台に戻ってこれた。しかも、その後に政治家になるなんて、その時は思ってもいませんでした。

■江本孟紀(えもと・たけのり)
1947年、高知県生まれ。高知商業、法政大を経て、谷組に入社。71年、ドラフト外で東映に入団。南海や阪神ではエースとして活躍。81年に現役引退。8年連続二桁勝利で通算113勝。野球評論家として活躍し、映画やミュージカルにも出演。参院議員を2期務めた。2017年に旭日中綬章受賞。近著に『僕しか知らない星野仙一』(カンゼン)や自伝『野球バカは死なず』(文春新書)。

(構成/AERA dot.編集部・西岡千史)