仕事の細分化については、豊田氏はテレビの開発を例に挙げる。ブラウン管の時代、1製品の開発に関わるのは10人足らずだったが、液晶時代には200人に膨れ上がった。テレビ開発の中の半導体に限っても、製造プロセスは500にも及ぶ。「1人のエンジニアがかかわるのはそのうちの5~6程度。若いエンジニアは、自分が担当する部分が最終的にどんな製品に生かされ、どんな目的で何に使われるのか、理解していないでしょう」

 モチベーション(動機づけ)研究の分野では、自分の仕事について「一連の仕事を最初から最後まで任される(タスク完結性)」「自分のやり方で進められる(自律性)」「仕事の結果や成果に反響や手ごたえがある(フィードバック)」などを感じられると、仕事へのモチベーションは高まるという理論がある。「若手社員を対象にアンケート調査をしてみると、これらを自分の仕事で得られているという若手は、半数しかいませんでした」と、豊田氏。

 現代の職場で進む仕事の高度な仕組み化や細分化は、新入・若手社員の仕事へのモチベーションを下げてしまっているようだ。

 ここまで、想像と現実のギャップに立ちすくむ、慣れ親しんできたヨコのネットワークとまったく異質なタテ社会に戸惑う、自分なりの仕事の型が作れず、モチベーションも上がらないといった、新入・若手社員が会社にうまく適応できない状況をみてきた。行き詰った新入・若手社員のうち、ある者は早々に会社を辞め、またある者は精神を病んでしまっている。だが、そうなってしまう責任をすべて若者に帰することはできないだろう。

「新入・若手社員の側も会社や上司の側も、双方が変わっていく必要がある。ですが先に変わるべきは会社とマネジャーだと、私は思っています」と豊田氏は説く。マネジャーが変わっていくため、最初の一歩として豊田氏が提言するのが、「上司という言葉を頭の中から消す」というものだ。

次のページ