その後輩が新天地で復活をかける2018年。石井も新たな戦いの舞台を選んだ。

 四国アイランドリーグplusの徳島球団で監督に就任した。昨季、ルートインBCリーグの覇者・信濃を下して独立リーグ日本一に輝いた強豪チームだ。

 NPB入りの夢を追う若きプレーヤーたちと真正面から向き合い続ける、熱き日々を送っている。

「難しい集団です。えっ、そこから教えるのか? そういう人ばっかりですからね」

 独立リーグでプレーする選手は、プロ野球の世界に進んできた「エリートたち」とは背景が大きく違う。事情があって、一度は野球を断念した選手がいる。ドラフト指名に掛からず、それでもプロへの思いを諦め切れずに独立リーグへやってきた選手もいる。キャリアも、年齢もさまざま。そして、実力もパフォーマンスも明らかにNPBの選手たちよりも劣る。

 ただ、それは単に実力だけのものではない。

 練習前に、日経を読んでいた松坂の姿が石井の脳裏から離れない“理由”が、そこにある。

 こいつは、何かが違う。

 負けられない。

 俺も何かやらないと、こいつに勝てるわけがない。

 そうした“気づき”の部分で、独立リーグの選手たちと、石井が見てきた一流のプロとは違うのだという。

「そこで、見えて欲しいんですよね。そこから違う。分かってほしいんですよね」

 石井も、松坂が「日経」を読んでいた春野キャンプでの1カ月を終えると、それまで購読していなかった「読売」を自宅で定期購読するようにしたのだという。松坂と、同じではない。でも、スポーツ新聞ではなく、今まで読んでいなかったものにチャレンジする。

 あいつは、何を学ぼうとしているのか。

 それを探る。追いつこうともがく。それが、向上心でもある。単なる対抗心やライバル心、見栄などではない。その“貪欲さ”を、若き選手たちに伝えたいのだ。

 石井は現役引退後の2008年から6年間、西武で1軍と2軍の投手コーチを歴任してきた。5年間解説者を務め、独立リーグの監督就任が決まった時、松坂はソフトバンクを退団して、まだ次が決まっていなかった。

「ウチのキャンプ、来てくれよ」

「何もなければ、行きたいですね」

 ワールドシリーズでも投げた。WBCでもMVPを獲得した。その栄華を極めた男が、全盛期より10キロ以上も遅くなったストレートしか投げられなくなっても、今なお現役で投げ続けようとしている。その生きざまを、執念を、若い選手たちに石井は見せたかったのだ。

 石井も今、指導者としてもがいている。

 4月25日の高知戦。2回で8-0とリードしながら投手陣が崩れ、まさかの逆転負けを食らった。

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石井が松坂に課した“ノルマ”は?