「勝ち負けも大事なんだけど、ピンチをどうやってクリアするか。プロに行ったら、そういうところが一番大事。でも、彼らは形にこだわりすぎている。綺麗に抑えようとしている。こっちも、勉強しないといけないですね。彼らの心に刺さるように言ってあげないとね。

 なんか、やっぱり、違うんですよ。プロは逃げられないんです。選手の“圧”も違う。やるか、やられるか。目の色が違う。独立リーグはまだ逃げられるんですよ。なんでだろうね。この1年、野球がやれるみたいな、そんな感じでやっている。危機感、ないのかな?」

 松坂大輔という、心も体も、その実力も段違いの男を見てきた石井にとって、独立リーグで戦うプレーヤーたちの“足りない部分”はすぐに見えてしまう。それに気づかせ、プロとしての技術と心を鍛えていくのが、独立リーグという舞台で監督を務める石井の役割でもある。

「口酸っぱく、毎日毎日、言わないとダメだね。成長を促していくしかね。だんだん、独立リーグ、分かってきたな」

 新たなる挑戦。

 そこには、難しさもある。乗り越える楽しさもある。だから、挑むのだ。

 名古屋と徳島。松坂も石井も、互いに挑む舞台は大きく変わった。それでも、志は同じだ。

「5勝、かな? 月1勝。それだけ勝てれば、たいしたもんですよ」

 石井は、松坂へそんな“ノルマ”を課した。

 4月30日のDeNA戦(ナゴヤドーム)で、松坂は今季3度目の先発マウンドに臨む。

「もうちょっと頑張っている大輔、見たいね。森(繁和監督)さんに拾ってもらって、僕もうれしいですよ」

 石井も、松坂に負けじと、闘っている。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。