安倍首相の誤算は、昨年11月29日にさかのぼる。この日、北朝鮮は米国本土に到達可能なミサイル『火星15号』の試験発射に成功。米朝の緊張が極限まで高まった。それを受けて安倍首相は強硬姿勢をさらに強めた。

 ところが文在寅氏は12月19日、米NBC放送のインタビューを通じて「韓米合同演習の延期」を米国に提案したことを発表。韓国が米国に対して独自外交をとっている姿勢を見せた。すると、年が明けてから金正恩氏は「威嚇」から「交渉」に一気に舵を切った。平昌五輪では「ほほえみ外交」を駆使して南北協力をアピール。米朝首脳会談の合意など、北朝鮮と韓国の望むシナリオが次々実現していった。

 その動きを見て、中国とロシアも北朝鮮との連携を着々と深めている。

 3月下旬には習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談するため、金正恩氏が北京を訪問。両国の関係改善や朝鮮半島の非核化で一致した。

 ロシアのラブロフ外相は4月10日、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相とモスクワで会談。時期は明示しなかったが、ロ朝首脳会談開催の可能性も示唆した。ロシア情勢に詳しいJAROS21世紀フォーラムの服部年伸氏は言う。

「ロシアとしては、今後予想される北朝鮮への経済協力に参加したい。北朝鮮としては、中国に加えて自らの後ろにロシアが存在している状態が望ましい。モスクワでの外相会談では、『北朝鮮の一方的な軍縮はありえない』との認識で両国が一致していることから、連携は十分に取れている。6月に予定されている米朝首脳会談の前に、プーチン大統領と金正恩氏の会談が実現する可能性もあります」

 激変する北朝鮮の動きに安倍首相が行動できたのは、トランプ米大統領や文在寅氏に拉致問題を会談で取り上げるよう求めたことぐらい。両氏から同意を得ることはできたが、南北首脳会談の板門店宣言では拉致について触れられた形跡がみられず、今後の成果に結びつくかは不透明だ。

「トランプ氏は約束した以上は会談の場で取り上げるでしょうが、それで拉致問題が進展するとは思えません。この問題は直接交渉でしか解決しませんから」(前出の外交筋)

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日本は蚊帳の外?