昨年8月に右手首の尺側手根伸筋腱を脱臼した錦織圭は、今年1月末、ATPツアーの下部大会である“チャレンジャー”で公式戦の舞台に戻ってきた。その復帰戦では初戦敗退となるも、翌週出場したチャレンジャーでは優勝。さらに、復帰後初のATPツアー大会となったニューヨークオープンでもベスト4に勝ち上がり、完全復帰への道を順調に歩んでいることを伺わせた。
ところがその後、重度の風邪の症状に苦しめられアカプルコ大会は初戦敗退。インディアンウェルズ・マスターズは棄権し、例年好成績を上げていたマイアミ・マスターズも、3回戦(1回戦はシード免除)で世界6位のホアンマルティン・デルポトロに敗れた。
マイアミでの錦織が万全ではないことは、練習中の光景を見ても明らかだった。一時は40度近くあったという熱は引いたものの、咳は依然、彼の身体に残ったまま。ラリーが続くと明らかに息苦しそうで、ショットが浮く場面も目立つ。まともに練習やトレーニングもできない期間が長かったのだから、体力の低下が否めないのも当然だった。
そのような苦境にあっても錦織は、2回戦のジョン・ミルマン戦では、手札の豊富さを発揮し熱戦を切り抜ける。第1セットで6本あった相手のセットポイントを凌いだのは、勝負勘が戻ってきた証左だろう。
テニスそのものの感覚が戻りつつあることも、3回戦のデルポトロ戦の序盤で印象づけた。フォアのストロークで相手を左右に振り回し、機を見てはボレーを決める。サーブにも安定感があり、最初2ゲームを危なげなくキープすると、デルポトロのゲームをブレークするチャンスも手にした。
ただ、この時点で錦織は、すでに試合終盤であるかのように、ボールを打ち込むごとに呻くように声を漏らす。その姿はペース配分度外視で、相当に飛ばしていたことを暗示していた。果たして第5ゲームは、3度のデュースを重ねた末に、最後はフォアのショットをネットに掛けてブレークを許す。炎天下の中、この時すでに試合開始から24分が経過していた。
ブレークされたこのゲームを境に、錦織のパフォーマンスは明らかに低下する。時折放つロブや背面ショットなどの美技で観客を沸かせるが、安定のサーブと破壊的なフォアのストロークを誇る世界6位を慌てさせるには至らなかった。