試合後の錦織は、「ファーストセットはチャンスボールをミスすることが多かったが、そこまでの組み立てはできているので、完全に打ちのめされた訳ではない。簡単なスコアでしたが、それなりにポジティブなところもあった」と、敗因と同時に“上手くできたこと”に目を向ける。また、敗因を潰していくため必要なのは、「もう少し試合数や練習をこなして自信をつける」ことだと言った。

 そのような「試合数をこなしたい」という強い意向からだろう。錦織は今年、4月15日開幕のモテンカルロ・マスターズに6年ぶりに出場する。彼がこれまでモンテカルロを回避してきたのは、クレーに始まり芝のウィンブルドンで終結する長い欧州シリーズに備え、フロリダでトレーニングに打ち込むため。

 その欧州シーズンの開始を1週早めるということは、クレーへの準備期間が少なくなることも意味している。またヨーロッパに拠点を持たぬ錦織にとっては、この春から初夏に掛けての欧州遠征は、ホテル暮らしや練習場所を探しながらの、まさにアウェーでの転戦。心身のストレスや疲労も大きく、それが例年、ウィンブルドン前にケガを抱えた一因でもある。

 もちろん、欧州遠征中は毎日試合がある訳ではなく、バルセロナオープンとマドリード・マスターズの間のように、出場大会がない週もある。そのような時間を有効活用し、練習やトレーニング、あるいは休養にいかに充てていくかが、「長くなるのでタフはタフ(錦織)」な数カ月を乗り切る上での鍵になるだろう。

 欧州のクレーコートは、例年錦織が好成績を残す相性の良い場所であり、同時に前年に獲得したポイントが大きいため、それを失えばランキングが大きく下がりかねない試練の地でもある。

 欧州の赤土に錦織が刻む足跡は、今季の彼が進む順路を決めるうえでも、大きな意味を持つはずだ。(文・内田暁)