上原も過去2年間はセットアッパーに配置転換となり、防御率は一昨年が3.45、昨年が3.98と悪化している。だが、クローザーとして極めて重要になる奪三振については、過去2年間とも投球回を上回る数字を残している。また、1投球回あたり何人の走者を出したかの指標であるWHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)を見てみると、一昨年は0.96、昨年は1.16という数字が残っている。WHIPは1.00を切ればエース級で、1.1台であれば十分高いレベルと言われていることを考えれば、40歳を過ぎた現在でもメジャーで一流の力を維持していると言える。

 上原の武器は数字以上に手元で勢いのあるストレートと、同じフォーム、同じ軌道から鋭く落ちるフォークボールである。その長所に目立った陰りは見られない。テイクバックが小さく、タイミングが取りづらいフォームも打者を幻惑する要因になっている。また、太ももの故障に苦しんだ経験から、渡米後に下半身の沈み込みをさらに小さくしたことがプラスに働いているように見える。

 不安はとにかく体調面だ。ここ数年間はアクシデントも含めて故障者リスト入りすることが多く、不安を抱えながらのピッチングが多かった。そういう意味では、MLBに比べて、遠征の移動時間が短く、連戦が少なくなることも上原にとってはプラス要因になるのではないだろうか。バッテリーを組むことが予想される小林誠司をはじめとした若い捕手陣との連携にも不安がないわけではないが、アメリカで4球団を渡り歩いて、さまざまな捕手とプレーしてきた経験はここでも生きてくるだろう。

 NPBでは40歳を超えたクローザーは、ほぼ存在していないと述べたが、MLBでは歴代1位の652セーブを誇るマリアノ・リベラ(ヤンキース)が引退した44歳のシーズンで44セーブ、防御率2.11をマークしている。また、歴代2位の601セーブをマークしたトレバー・ホフマン(ブルワーズ)が引退する前年の42歳のシーズンに37セーブ、防御率1.83という一流の成績を残している。上原の実績と現在の実力を考えれば、彼らのような活躍を日本で見せても何ら不思議ではない。昨年Bクラスに沈んだチーム、そして同じ1975年4月3日生まれの高橋由伸監督の切り札として、43歳の大ベテラン最後の輝きに期待したい。(文・西尾典文)

※所属は当時。

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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