こうした環境調整とプロセスがあって初めて「本当に選びたかった選択」ができるのです。

■もし卒業式を間近に控えていたら

 最後になりましたが、いま現在、わが子が卒業式に行くか行かないか、やきもきしている方にお伝えしたいことがあります。

 まずは「卒業式に出席してほしい」という重圧を本人にかけないでください。「学校へ行けるか行けないかは本人にもわからない」のが不登校の「通常運転」です。卒業式の当日だけ、人も学校も突然変わるわけではありません。

 また卒業式はたんなる儀式です。卒業証書をもらわずとも、卒業式に出ずとも卒業はできます。さらに言えば義務教育は出席日数に関係なく卒業は校長裁量で認められます。

 不登校経験者の親であり、弁護士の多田元さんは、上記のような前提を踏まえたうえで「卒業式は形にこだわらず、本人が未来の可能性に視野を広げられよう、本当の意味での『卒業』に向けて周囲はサポートしてほしい」と語っています。

 Aくんのように「決着がついた」と感じられた人は、本当の意味で『卒業』できた人でしょう。周囲は、本人の「いま」の決断を尊重し、卒業式の日は出欠にかぎらず、けっして平坦ではなかった「学校外の道」を親子でねぎらいあってもらえれば、なお幸いです。(文/石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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