――日本ではまだあまりなじみのない非営利の報道機関。どのような経緯で生まれたのですか?

 アメリカの新聞社の多くは、株式を証券市場に上場している会社の傘下にあります。毎年度、利益を出して株主に配当し、株価を上げなければいけない、という圧力に常にさらされています。そういうなかで、今世紀に入って、新聞社の経営は、収入の大部分を占めていた広告をインターネットに奪われ、そこにリーマン・ショックも加わって、大打撃を受けた。利益を維持するために、リストラに踏みきり、記者の数を削減していきます。コストがかかる上にリスクが大きい調査報道から手を引く新聞社が続出しました。そうした「調査報道絶滅」への動きに対する反作用として、「利益のためでなく、読者のための報道」というアイデアが従来以上に支持されるようになりました。そうして、非営利の報道に大富豪などから多額の寄付金を寄せられるようになったのです。

 ICIJは、1989年に前述のルイスさんが設立した非営利報道機関「センター・フォー・パブリック・インテグリティー(CPI)」のプロジェクトとして1997年に発足し、各国のジャーナリストにネットワークを広げ、「協働」という形で世界的な調査報道を手がけてきました。アメリカではここ10年ほど、非営利の報道機関が続々と誕生し、大きな成果を出すようになっていますが、そのなかでは、CPIやICIJはいわば老舗になります。

 CPIやICIJと一緒に取材・報道にあたるテーマはタックスヘイブンに限られているわけではありません。皮膚、骨などヒトの体の組織の売買(2012年)、核物質のセキュリティ(2014年)の問題を取り上げたこともあります。タックスヘイブンについて私がICIJから最初にデータの提供を受けたのは2012年で、翌年の2013年から2014年にかけて「オフショア・リークス」として各国のメディアが報道しました。朝日新聞でも13年4月5日付朝刊に「金持ち天国、タックスヘイブン秘密ファイル入手」と題した記事を掲載。この中には、日本でも大型粉飾決算事件として話題となったオリンパスの損失隠しに協力した関係者の名前もありました。

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奥山記者がちょっと感動したこと