――その後も「ルクセンブルク・リークス」(14年)、「スイス・リークス」(15年)、「パナマ文書」(16年)、「パラダイス文書」(17年)と、タックスヘイブンにまつわる大型金融リークが続きます。苦労した点、手応えを感じる瞬間は?

 パナマ文書、パラダイス文書については、とにかくデータ量が多く、全部目を通したら間違いなく一生かかってしまう。「あたり」をつけてひたすら検索をかけていくのですが、たとえば国会議員を調べるときに、その家族にまで広げようとすると相当な時間と労力になります。「これは!」と調べても、同姓同名の違う人だったり。そういったハズレも少なくありません。

 文書の内容を見ると、信憑性はかなり高いと感じますし、文書の外にある客観的な資料や事実関係と一致しているところもあり、そうした点からも、文書は本物であると見ていいと思っています。ただ、どのような人からもたらされたデータなのかが不明ですから、すべてをそのまま信用してそのまま新聞の記事にしていいとまでは判断しないことにしています。だから、現場に行き、当事者に話を聞き、データの裏付けを取ることが非常に大事。それができなければ、少なくとも朝日新聞で記事にすることはできません。

 本書でも触れていますが、パラダイス文書の中に「バイオセンサーズ・インターナショナル・グループ社」という医療機器メーカーが、株式上場前の未公開株やストックオプション(株を購入できる特別な権利)を各国の医師に取得させていたという記録を見つけました。同社の特許はバミューダ諸島の法人から出願されていた。日本では宮城県仙台市の医師3人の名前がありました。その一人が営む診療所に、患者さんがいなくなる時間帯を見計らってふらりと行き、「バイオセンサーズ社についてお話を伺いたい」と取材を申し込みました。するとその医師は「上場する前に株主だった」とあっさり認めた。データを信じて取材してはいますが、そのとき「この文書はやっぱり本物だったんだ」とちょっと感動したことを覚えています。

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