左利きの大天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが残した鏡文字の秘密 現代の医師が診断

連載「歴史上の人物を診る」

歴史上の人物を診る

朝日新聞出版の本

2017/11/30 07:00

 レオナルドは膨大な手稿を残している。その中には人生哲学や自然論に加えて、潜水艦やグライダー、ヘリコプター、反射望遠鏡等の設計が含まれるが、多くがすべてそのままでは読みがたい鏡文字である。

 ヴァザーリら伝記作家によると、自分の発見の秘密保持あるいは模倣者の眼を避けるための暗号であるという。しかし、左右の手の運動は対称になる生来的な傾向があり、左利きに限らず左手で文字を書くと、脳にある文字のイメージが自然に裏返しになることがある。もちろんレオナルドも他人に読ませる公文書や手紙は普通の文字で書いたのであろうが、自分自身の備忘録は利き手の左に書きやすい鏡文字になったのかもしれない。

 利き手を生じるメカニズムは、大脳左右両半球のうちいずれが優位であるかによると考えられている。一般に左半球は論理的思考や言語能力に、右半球は空間の認識や造形に関与するという。

 そうなるともっと左利きの絵描きが多そうであるが、一般人と差がないのはなぜだろうか。

 欧米でも日本でも右利きが世間の大半を占めることから、生来的に左利きであっても右利きあるいは両手利きに矯正(強制?)されているのかもしれない。左半球が言語脳、右半球が空間脳であることは脳損傷患者の所見などからほぼ定説であるが、これがなぜか、さらにどうして利き手と結び付くのかという問いに決定的な答えはない。

 左利き画家のリストを見直してみると、謎に満ちた表情のモナリザや洗礼者ヨハネ、安寧たるべき聖母子の背景に胎児や大洪水による破局を描きこんだレオナルド、水が低きから高きに流れ、魚が鳥に変化して飛んでいく騙し絵の大家エッシャーら、一癖も二癖もありそうな画家がそろっている。胎児期や新生児期の左脳の成長遅れが、右脳の特別な発達をもたらすという仮説がある。彼らはかようなシナプスの可塑性により恩恵を受けているのかもしれない。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

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