相手は取材先。情報を持っているため記者より優位に立つ反面、記者には情報源を守るというルールもある。翌日、上司に相談すると「相手の家族にも迷惑をかけるし、情報源を売ったと言われて自分の仕事にも影響が出ることになる」と言われ、組織として正面から抗議をすることを断念した。職場では、その警察官には二度と接触しないことになったという。

 望月さんは数日後、電話で本人だけに直接抗議をして謝罪を引き出した。

「私のケースは、レイプや性虐待とは違うかもしれません。問い詰めた際、相手が真摯に謝罪をしたので許しました。過去のことですが、自分が嫌だと思ったことやその基準をさらけ出すことで、社会や男性たちの意識も少しずつ変わっていくと思う。日本の社会も刑法もまだまだ男性優位に作られていて、そのことは性的被害を経験した人の5%しか警察に被害届を出さないという現実にも表れています。自分の経験を話すことは恥ずかしいことではあるけれど、いまこそ必要な時なのかなと思います」

 元厚生労働事務次官の村木厚子さんも今月13日、東京・大田区で開かれたシンポジウムで、就学前の幼いころに中学生の男の子に体を触られた経験を語っている。主催者によると、貧困や性的搾取など悩みを抱える少女や若い女性と支援者をつなげる「若草プロジェクト」の呼びかけ人を務める村木さんは、性被害者に向けられた誤解や偏見など現状を説明。その中で、自身の経験について告白し、「できるだけ性犯罪が起こらないようにすると同時に、傷ついた人たちが泳いでいく水の温度を1度でも上げたい。それは普通の市民にもできることかなと思います」と話したという。

 レイプや性虐待など性暴力の被害者から電話相談を受け、警察や病院、弁護士への相談につなげる活動をするNPO法人「性暴力救済センター・東京」の平川和子理事長は、この動きを「被害者の大きな力になる」と歓迎する。同センターが受けた電話相談は今年4月からの半年間で2799件で、その3分の1が被害から1週間以内の急性期対応だった。相談者のほとんどは20代前半までの若年層の女性で、30歳未満まで年齢を広げると、相談者の7割を占める。この相談の電話をかけてくる女性のほとんどは、その前に友人や同僚など、身近な人に話しているというのだ。

次のページ