国技館を出る日馬富士(中央)=19日午後0時23分、東京・両国、角野貴之撮影 (c)朝日新聞社
国技館を出る日馬富士(中央)=19日午後0時23分、東京・両国、角野貴之撮影 (c)朝日新聞社

 大相撲の横綱、日馬富士が平幕の貴ノ岩を暴行した問題で角界が揺れている。厄介なことに、現場となった鳥取市内のラウンジに居合わせた同席者の証言が食い違っているうえ、貴ノ岩側が日本相撲協会と鳥取県警に提出した2つの診断書の内容が異なっているようだ。さらに、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方が現執行部に不信感を抱いているのではないかとか、この問題を相撲協会の次期理事長選で勝つために利用しているのではないかと見る向きもあり、さらなる混乱を招いている。

 精神科医で、『オレ様化する人たち――あなたの隣の傲慢症候群』(朝日新聞出版刊)の著者である片田珠美さんが、日馬富士暴行事件の裏に見え隠れする、相撲界の体質について分析した。

■アルコールの影響による「脱抑制」

 1つだけたしかなのは、日馬富士が酒席で貴ノ岩を殴打して負傷させたことだ。事件が起きたのは2次会だが、1次会から酒のピッチが上がり盛り上がっていたらしいし、日馬富士の酒癖の悪さは何年も前から指摘されていたということなので、精神医学的にはアルコールの影響による「脱抑制」の可能性が考えられる。

「脱抑制」とは、アルコールなどの影響で、文字通り抑制がきかなくなることだ。日頃は借りてきたのようにおとなしいのに、酒が入ると人が変わったように攻撃的になり、ときには暴力まで振るう人がいるが、こうした傾向が日馬富士にもあるのではないかと疑わざるを得ない。

■「間欠爆発症」の可能性

 日馬富士が鳥取県警の事情聴取に対し「貴ノ岩の態度に腹が立ち、殴った」という趣旨の説明をしているところを見ると、「間欠爆発症」の可能性も否定できない。「間欠爆発症」は、怒りや攻撃衝動を制御できない衝動制御障害の一種であり、激しい口論や喧嘩、他人への暴力や器物の破壊などを繰り返す。しかも、攻撃性の爆発は、きっかけとなるストレスや心理社会的誘因と釣り合わないほど激しい。

 今回の事件を振り返っても、日馬富士が激高したきっかけと攻撃性の爆発が釣り合わない印象を受ける。横綱の白鵬に生活態度を注意されていた貴ノ岩が、話の最中に、知人から連絡が来たとしてスマートフォンを操作したことがきっかけのようだが、「怪我をさせるほど怒るようなことなのだろうか」と疑問を抱かずにはいられない。

次のページ