「私がかつて銀行に勤めていたときは、『バランスシート(貸借対照表)が読めて一人前』と先輩から言われました。決算書のうち、損益計算書が『会社の運動成績表』だとすれば、貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書は『会社の健康診断書』。ニュースなどでは、営業利益や最終損益など、損益計算書に書かれた数値ばかりが取り上げられますが、『利益が出ているからこの会社は安全だ』とは、必ずしも言えないのです」

■利益は「意見」、キャッシュは「事実」

 会計や財務に縁遠い人からすれば、「赤字にさえならなければ会社は潰れないのでは?」と思える。だが佐伯氏は、「利益を過信するのはとても危険だ」と話す。

「会計の世界には、『利益は意見、キャッシュは事実』という金言があります。これは意訳すれば、『キャッシュ(現金)の額は操作できないが、利益の額はある程度つくれてしまうもの』ということです」

「利益はつくれる」と佐伯氏が指摘する根拠は、損益計算書の作成方法が「発生主義」に基づいている点にある。発生主義とは、「モノやサービスが提供された時点で売上や費用が発生する」会計上の仕組みのこと。では、なぜ発生主義だと、利益はつくれてしまうのだろうか。

「例えば製造業なら、パソコンや冷蔵庫をつくって“引き渡した時点”で、それらの金額を損益計算書の売上に計上できます。しかし実際には『売掛金(今後回収予定の代金)』に過ぎないので、会社にまだ現金は入っていません。これを利用すれば、実態はほとんどが売掛金で代金回収できていなくとも、損益計算書上は売上を増やし、“ハリボテ”の利益額を押し上げられるというわけです。これを巧妙な方法でやったのが東芝です」

 見かけ上は利益が出ていても、キャッシュが入らなければ、いずれ資金繰りがショートし、会社は潰れる。そのため会社の安全性を知りたいのであれば、利益ではなくキャッシュの動きに注目せよということだ。

次のページ