延長11回、力投するソフトバンクのサファテ (c)朝日新聞社
延長11回、力投するソフトバンクのサファテ (c)朝日新聞社

 68回の長い歴史を数える日本シリーズで、サヨナラ勝利での日本一決定という劇的な幕切れは今回を含めても4度しかない。延長11回、川島慶三の右前打は、前進守備を敷いていたDeNAの右翼・梶谷隆幸の正面に転がった。その打球は、かなり浅かった。それでも、二走・中村晃はホームへ向かった。クロスプレーになりそうなタイミングだ。

 しかし、こんなときに限って、野球の神様はちょっといたずら心を起こしてしまうようだ。バウンドした梶谷の送球が本塁手前の人工芝の部分でポンと跳ね上がると、捕手の嶺井博希の頭上を通り過ぎた。ストライク送球だったら、憤死していたかもしれなかった。何とも“気まぐれな返球”が、ソフトバンクの2年ぶりの日本一を呼び込んだ。

 ソフトバンクの選手たちが、二塁ベース付近で両手を掲げていたヒーローのもとへ、乗り遅れてたまるかとばかりに全力疾走だ。歓喜の輪ができあがる。工藤公康監督が選手一人一人と抱き合い、喜びを分かち合った後の胴上げが始まった。ゴールドの紙吹雪が舞う中、指揮官は7度宙に舞った。

「苦しかったです。勝たなきゃいけない。負けられないという中で、選手たちが実力以上の力を見せてくれた。強いホークスを、このヤフオクドームで出すことができた。それが何よりも幸せです」

 3連勝、2連敗で迎えた第6戦も、5回に逆転を許し、2点のビハインドのまま終盤へ。DeNAの先発・今永昇太の前に、7回まで松田宣浩が2回に放った1号ソロのみの1点に抑え込まれ、ヒットもその1本だけ。11三振を喫する貧打ぶりに、追い上げる気配どころか、どんどん追い詰められていく…。そんな中、8回に1点を返して1点差。さらに9回、DeNAの守護神・山崎康晃から、4番・内川聖一が起死回生の同点弾を左翼スタンドへ運んだ。「絶対に打ってくれる。そんな確信めいたものがあった」と工藤監督。選手を信じる。最後まで諦めない、その前向きな心こそが奇跡的な粘りを生み、シリーズ史に刻まれる感動的なエンディングとなったに違いない。

 …というのは、勝ったからこそ言える。勝負事は勝てば官軍。そのプロセスでどんなミスがあろうとも、終わりよければすべてよしなのだ。それでも、シリーズ観戦記のラストとしては、ちょっとひとひねり、あえて劇的なラストに水を差すような見方をしてみたい。野球の世界に「もし」がないのは承知の上だが、仮にこの試合、ソフトバンクが落としていたら、結果が逆に転んでいたら、一体どうなっていたのだろうか。まさに“明日なき戦い”の様相を呈していた第6戦。チームの危機を救ったのは、守護神デニス・サファテが見せた『36球の激投』だった。

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