「チームのために投げただけだよ。今年、自分の都合でチームを離れた。だからきょうは、自分がチームのために投げたんだ」

 5月下旬に、夫人のジェイダさんが体調不良を訴えた。サファテは球団の許可のもと、米国へいったん帰国。妻を見舞った後に再来日した。家庭の事情とはいえ、ストッパーという役割を担う自分が戦線離脱したことが、心に引っかかっていたという。その“お返し”が、異例の3イニング登板だったというロジックは、サファテの美学であり、周囲の称賛への照れ隠しでもあるだろう。それでも、助っ人が見せたその男気は、チーム全体を奮い立たせるのには十分だった。守護神が3イニングを投げ、無失点で切り抜けた11回、攻撃を前にベンチ前で内川を中心に円陣を組んだ。

「ここまでやって、負けたら損だろ。デニスがここまで頑張ってくれたんだから、それ以上に俺たちが頑張らないと」

 川島のサヨナラ打は、チームの“力の結集”ともいえるだろう。ただ、無粋は承知であえて言おう。もし本塁へ突っ込んだ中村晃がアウトになっていれば、いや、その直前の1死一、二塁で、松田の三ゴロをさばいた宮崎敏郎の、三塁をフォースアウトにした後の一塁送球がそれず、併殺でチェンジになっていれば、延長12回は誰が投げたのか。4イニング目のサファテは恐らくあり得ないだろうし、負けて第7戦に突入したところで、サファテは投げられなかっただろう。それでどうやって、第7戦を乗り切るつもりだったのか。

 前倒し気味の投手起用となったツケが、サファテの右腕にのしかかった。明日なき戦い。それを覚悟の上で、サファテは全力で36球を投げ込んだ。シーズン54セーブの日本記録を樹立した絶対的守護神がプライドをかけ、DeNAの前に立ちはだかったからこそ、すべてのミスは帳消しとなった。プロは勝つことがすべてだ。終わりよければ、それですべてよしなのだ。

「きょう、全部を使い切ってしまった。明日の分は残っていなかったよ。疲れたね。まあ、3イニングはもう、これっきりにしてほしいよね」

 そう笑いながらも、サファテはどこか誇らしげだった。

 腕も折れんばかりに、そして、3イニング目は肩で息をしながらも、力を振り絞り、最後まで投げ続けたサファテの姿は、感動的でもあった。「シリーズMVP」に、誰も異論を唱えないだろう。滅私奉公、自己犠牲。サファテの熱投を見ながら、ここ最近、すっかり聞かなくなっていたフレーズを思い出したのは、筆者だけではないと信じたい。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。