サファテが右腕を振り回し、雄たけびを上げながら、一塁側ベンチに全力疾走で戻ってきたのは、この日の2イニング目も無失点に抑えた延長10回のことだった。来日7年目。広島、西武、そしてソフトバンクと3球団を渡り歩いたストッパーは、1試合で投げる投球イニングは、最長2イニングだった。先発投手のように6回・100球をメドに、ペース配分を考えて投げるのではなく、1回で15球前後を、それこそ全力で行き、力でねじ伏せてしまう。それが守護神の仕事だ。だから、イニングをまたぎ、2イニング目に突入するのは、腕や体、さらに心理的にも負担は大きい。それをましてや3イニング。シーズン中にそんなことをやれば、連投ができないどころか、故障の原因にもつながりかねない。

 それでも、サファテは工藤監督に向かって、右手の人さし指を1本、力強く突き立てた。「俺が行くよ」――。未知のゾーンともいえる3イニング目。ブルペンの“現状”を見た上での、サファテのプライドと男気からの直訴だった。

 1点ビハインドの九回、サファテが登板した時点で、すでに6人の投手を投入していた。先発の東浜巨は5回、1-1の同点に追いつかれ、さらに1死一、二塁のピンチを招いたところで降板。左腕の嘉弥真新也を挟み、2死二、三塁から今シリーズ2勝と波に乗る石川柊太を投入も、3番のホセ・ロペスに勝ち越しの2点タイムリーを左前へ運ばれた。

 6回は森唯斗、7回にはリバン・モイネロ、8回は岩崎翔。打線がDeNA・今永を打ちあぐね、2点のビハインドのままながら、勝ちパターンの投手を投入したのは、その点差をとにかく守り、反撃の糸口を見いだすためだ。

 サファテがマウンドに上がった9回は、その直前の8回に1点差に追い上げてはいた。しかし、シリーズは最大延長15回まで。ブルペンに残っていたのは武田翔太、寺原隼人、中田賢一の3人。寺原は横浜(現DeNA)時代にストッパーの経験があるとはいえ、今季の勝ちパターンを支えてきたリリーフのスペシャリストといえる存在は、誰もいなくなっていた。

 自分が最後の砦だ――。

 サファテは分かっていた。だから、内川の同点弾が飛び出した瞬間、ベンチ前でキャッチボールを始め、十回の登板に備えたのだ。その十回を投げ終えた直後に「あと1イニング」と自らアピールしたのも、自分の“後”にリリーバーがいないことが分かっていたからだ。

次のページ