しかしその後の鉄道の衰退は急だった。見る間に飛行機と車に乗客を吸いとられていく。荘厳な駅舎は、しだいに広さだけが目立つようになっていく。やがてその駅を放棄し、道の反対側にある商業ビルの地下に駅機能を移すことになる。

 改札口の手前で振り返ると、地下通路が旧駅方向に向かってのびていた。行ってみると、旧駅の地下に出た。

「ほーッ」

 思わず見あげてしまった。高い天井は明かりとりになっていた。その光に映し出される世界は大きな教会の内部のようだった。ここがよく写真で登場するグレートホールだった。かつての待合室である。木製のベンチが並んでいる。

 昔、『アンタッチャブル』という映画を観た。主演のケビン・コスナーがまだ若い頃の映画だ。マフィアとの銃撃戦は、この駅で撮影された。あかちゃんを乗せた乳母車が石の階段をガタン、ガタンと落ちていく。それが合図のようにして銃声が響きはじめる。

 そのシーンが記憶に残っている。

 グレートホールは当時のままに残されている。いまは記念館のような趣すらある。イベントにも使われるというのだが。

 映画で銃撃戦が撮影された階段をのぼって旧駅舎を出た。道の向かいには、味気ないビルがあるだけだった。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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