巨大な「市場」です。今後も謝金市場は増大し続けるでしょう。高齢化が進み、医師不足が深刻な昨今、誰もが「名医」に治療してもらいたいからです。

 医師の実力は一般市民にはわかりづらいため、知り合いの医師に聞くしかありません。最近は、主治医だけではなく、紹介医師にも包む人が増えているといいます。謝金をしておけば、身内が病気になった場合も頼みやすいからです。医師が不足している以上、こうした二重価格が横行するのは当然の帰結です。

 問題の本質は、医師不足と医療費増加にあります。国民にとっても、医師にとっても、負担を強いる大問題です。

 ところが、一部は利権に目がくらみ、一部は現実から目をそむけ、皆が議論を避けています。いつになれば、医師不足が解消されるのか。

 誰かが本気で取り組まない限り、現状が続きます。2050年まで医師数は減り続け、読者の多くが生きている間には事態は改善しないでしょう。我が国では、市民自ら、自分の味方となってくれる主治医をつくり、もしもの時に自分を守るほかないようです。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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