●パラダイムシフトが鮮明になる世界

 冷静に考えれば、北朝鮮は、崩壊しつつある戦後の「常識」から外れた4番目の国になるだけである。それは、戦後の「常識」はすでに「非公式に」あるいは、「事実上」変更されているということをあらためて示しただけだと言っても良いだろう。

 もちろん、だからと言って、北朝鮮の核開発が正当化されるわけではないし、他の諸国に比べれば、地理的に近接している日本にとって重大な脅威になることは確かだ。しかし、今のように北朝鮮だけが「悪の権化」だとして、圧力と場合によっては軍事力でねじ伏せようというやり方が正しいのか、そして、効果的なのかということについては大きな疑問がある。

 今年7月には、国連で「核兵器禁止条約」が成立した。北朝鮮の核開発はこの新しい条約でも認められるものではない。

 一方、この条約は、ある意味で、戦後の常識への変更を迫る「公式な」動きだと見ることができる。NPTとは違い、この条約は、5大国を含めたすべての国の核兵器を無くそうというものだ。つまり、5大国の特権を否定する。これは、明らかに戦後の「常識」への挑戦である。

 このように、戦後の常識が、「公式にも」転換し始めたということは、非常に重要な意味を持つ。今後は、米中ロ中心ではなく、世界の全ての国がフラットな立場で世界平和を維持する責任を負う体制に徐々に移行していくという「パラダイムシフト」が起きている。それこそまさに「戦後レジームの転換」である。

●「戦後レジーム」にしがみつく安倍政権の罪

 この「パラダイムシフト」に対して、日本は、抵抗する側に立っている。日本は、安全保障理事会の常任理事国入りを目指して活動しているが、これは、全ての国を平等にという方向とは真逆で、「自分にも特権を与えろ」と要求していることになる。

 また、核兵器禁止条約にも参加せず、米国などの特権維持に加担している。

 実は、2016年10月に、北朝鮮が核兵器禁止条約の制定交渉開始のための決議採択に賛成したことはあまり知られていない。これは、北朝鮮の論理に沿った動きだ。彼らは、核兵器を持ちたいと思っているのではなく、米国の核兵器から身を守るためにやむを得ず核武装するだけである。したがって、米国を含むすべての国が核兵器を廃棄するのであれば、自分も喜んで核を放棄しようというのだ。これに先立つ16年5月、金正恩朝鮮労働党委員長は「世界の非核化を実現するために努力する」と表明した。自国を「核保有国」と位置づけた上で「一方的な非核化」ではなく米国と対等な立場で核軍縮交渉に持ち込みたいということだ。北朝鮮はその後、米国にトランプ政権が誕生して核抑止力の重要性が増したこと、他の核兵器保有国がすべて条約に参加しないことなどを理由に条約参加を見送ったが、他の核保有国とともに核廃絶を目指すことになれば、その枠組みに参加する可能性は十分にある。

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