ラリー遠田「渡辺直美の不遇時代、背中を押したオリラジ中田」

連載「道理で笑える」

道理で笑える ラリー遠田

ラリー遠田

2017/08/07 11:30

「苦手なことなんて気にしなくていい。お前にはお前にしかできないことがある。得意なことを伸ばしていけばいいんだ」

 この言葉に背中を押されて、渡辺は自分の技を磨くことに専念した。歌、ダンス、変顔、ファッションなど、得意な分野を掘り下げていくことで、渡辺は徐々に自分らしさを発揮できるようになっていった。

 2014年、渡辺は自分の表現力をさらに高めるために重大な決意をした。日本での仕事を一時休業して、3カ月間ニューヨークに行くことにした。「戻ってきたら仕事がゼロになっているかもしれないぞ」と反対するスタッフもいた。だが、渡辺は、今の自分にはどうしても行くべき理由があると感じていた。そして、単身ニューヨークへと旅立った。

 エンターテインメントの聖地で英会話とダンスを学びながら、さまざまな人に会い、ライブを見ては刺激を受けた。そこで彼女が学んだのは演じる側の「気持ち」の重要性。伝えたいという気持ちが強ければ、言葉が通じなくても前提知識がなくてもきちんと伝わるものがある。そんな収穫を得て帰国した渡辺は、さらに一回り大きく成長した。

 帰国後は、デザイナーやダンサーなどお笑い以外のジャンルのクリエイターと仕事をする機会も増えてきた。その中で、ジャンルが違っても「伝えたい」という強い思いがあることには変わりがないのだ、ということを実感した。こうして渡辺は「芸人かくあるべし」というルールから完全に解放された。既存の枠に囚われず、ますます幅広い分野に進出していくようになった。

 2016年には自身初の海外ツアーを開催。ニューヨーク、ロサンゼルス、台北の3カ所を回り、言葉を使わないパフォーマンスで会場を沸かせた。芸人の枠を超え、日本という枠も超えて世界的なエンターテイナーへと成長しつつある渡辺直美。彼女の芸の根底に流れているのは「目の前の人を楽しませるために全力を尽くす」というニューヨークで学んだ表現者としての「魂」なのだ。(文/お笑い評論家・ラリー遠田)

ラリー遠田

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ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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