ライフ・プランニング・センターでは、30年前に、一般の市民に聴診器で血圧を測る方法を教えた。当時、看護学校にも同じことを教えに行った。その頃は、聴診器は医者のもので、それ以外の者が触れるのはとんでもない、という考え方が支配的だったわけです。ところが、教えれば、誰でも聴診器で血圧が測れる。そんなに難しいことではありません。

――ボランティアだからできるということはありますか。

日野原: 医学は自然科学ですが、ある一定部分は生活科学でもあるんです。19世紀以降、消毒やら薬物やら、近代医学は科学的な考え方を中心において発達してきた。が、今は生活習慣が最重要視されている。何を食べ、どう動き、どう睡眠をとるか、生き方そのもので健康であるかどうかが決まってくる時代になってきている。こういう時代には、人生経験の豊富なボランティアは貴重な存在です。

 例えば、僕はたばこを吸ったことがない。だから、「肺に悪いからやめなさい」と言っても、やめるつらさが分からないので、お説教になってしまう。ところが、かつて毎日100本吸っていた人が「朝、食欲がなく、手が震えるわ、吐き気がするわで、大変だったけど、たばこをやめたらこんなに体の調子がいい。つらいのは一時。それを乗り越えたら、うんとラクになりますよ」と言うと、説得力がある。

 病気経験のある人が、自らの体験をもとに積極的に生きる方法を語ると、実に説得力がある。若くて元気な医師ではちょっと無理なことが、ボランティアなら可能なのです。

――ボランティアの皆さんに望むことは?

日野原: 日常の支援活動も価値があるのですが、せっかく貴重な体験をしているのだから、介護や看護、医療の一部分までできるようになってほしい。血糖値の高い患者は自分でインシュリン注射を打つ。ならば、ボランティアだって注射を打てると思う。体温や血圧だけでなく、血糖や蛋白も測れる、そして専門家の意見を参考にしてデータを解釈する。こういう時にはこうだと、一度先生から聞けば、次からは自分でその判断ができる。「門前の小僧習わぬ経を読む」と同じで、医療に関する学校を出なくてもかなりのことができるようになります。ボランティアの皆さんには、もっともっと専門性を身に着けて、医学や医療、看護の本質に到達してほしい。

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