そんな時「絶縁」「破門」「除籍」「引退」などを同業の暴力団組織に通達するのが“状”。

 引退時や事務所移転、新設などでも常に“状”は出される。現在はネット社会だが、ずっと以前から暴力団組織に培われた特有の連絡、広報手段でもある。山之内氏はこう解説する。

「有印私文書偽造というのは、権利義務に関する重要な事項にかかわる文書を偽造した時に適用されます。想定しているのは不動産の契約書や小切手、借用書などです。暴力団の伝達手段、“状”に権利義務に関する重要な事項などありませんわ」

 しかし、今回の逮捕状が裁判所から出された。

「警察が、“状”は権利義務に重要だと作文したのでしょう。問題の“状”は先代組長が、引退したという内容でますます権利義務から遠ざかることになる。裁判所もよく逮捕状、認めたものです」(山之内氏)

 そして暴力団関連の裁判やトラブルを何千件も、担当した約40年のキャリアを持つ山之内氏はこう訴える。

「“状”が立件対象になったケースはかつてなく、これが私文書と認定されると、逆に警察がお墨付きを与えることになる。今後、暴力団が“状”を出す際、弁護士に依頼するような時代がくるかもしれません」(ジャーナリスト・今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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