久坂部羊「介護短歌 それは癒やし」 (2/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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久坂部羊「介護短歌 それは癒やし」

久坂部羊dot.#朝日新聞出版の本#認知症
左から毒蝮さん、小谷さん、久坂部さん

左から毒蝮さん、小谷さん、久坂部さん

老乱

久坂部羊著

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■真夜中に汚物捨てる戸の外に広がる星座介護ありてこそ

 詠み人のビデオ紹介はなかったが、私には印象深い一首だった。介護には苦労がつきもので、実際の介護には想像を絶する悲惨な状況もあるだろう。場合によっては、介護者が燃え尽きたり、共倒れになったりする危険もある。

 そんなとき、介護短歌をやっていると、格好の癒やしになる。苦しむ自分とは別に、表現する自分が存在するからだ。客観性が生じ、苦労がただの苦労でなくなる。むしろ苦労が大きいほど、いい歌につながるとも思えるので、精神のバランスがどっしりと安定する。短歌は介護のつらさを和らげるまたとない妙法だ。しかも、経費はゼロ。

 認知症を扱った歌もあった。

■叔父さんが亡くなったよと告げてから10秒だけの母の悲しみ

 89歳の弟が亡くなった報せに、92歳の母は一瞬、悲しみを浮かべたが、すぐに忘れたという。認知症を恐れる人は多いが、深い悲しみも10秒で終わるのなら、認知症も悪くないのではないか。

 私はかつて在宅医療で多くの認知症の患者を診察したが、たいていの家族が同じパターンで介護を困難なものにしていた。その原因は、家族が認知症を拒絶していることだ。

 拙作『老乱』でも描いたが、良好な介護をするには、認知症を受け入れることが重要である。収録前の打ち合わせでそう言うと、小谷アナウンサーが「ここですよね」と、拙作の一節を読み上げた。認知症を拒絶することが、いかに認知症の当人を傷つけ、介護をむずかしくしているかを書いたところで、まさに小説のエッセンスと言える部分。300ページを超える長編から、見事、ポイントを選び出した慧眼に心底敬服した。

 毒蝮三太夫氏は、私に認知症の有効な予防法を聞きたかったようだが、認知症の本態が十分に解明されていない今、正しい予防法がわかるわけがない。医師として無責任な発言はしたくないので、打ち合わせでそう申し上げると、ディレクターも毒蝮氏も了承してくれた。

 予防や治療を求めるのは、認知症を拒絶する気持が強いのと同じで、それは決して介護にいい影響を与えない。小谷アナウンサーが指摘したのも、そういうことを書いた一節だ。彼女は本番でも朗読してくれた。収録は編集されるので、オンエアされるかどうかはわからないが。(久坂部羊)


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