仮に僕自身の人生はうまくいったとしても、誰かが自由に生きる道を制限されるような社会だとしたら、それは変えないといけないと思う。

 そんなことを漠然と思っていたこともあって、大学では児童養護施設での学習支援ボランティアを始めた。子どもたちのバックグラウンドはそれぞれだから、一概には言えないんだけど、学習のときに常に考えていたのは、自分らしい人生を生きるために1ミリでも役立てばいいなということだった。結局のところ、役に立つかどうかなんて、人生を後から振り返ってみないとわからない。だから自己満足でしかないのかもしれない。それでもできることをやったつもりだ。

 そういうことと同時に、僕は政治や社会に対しても、意見を言わないといけないと思っている。子どもが自由に生きていけるかどうかが、その人の境遇とか、人との出会いとか、運にかかっているような状況を是認してしまいたくはない。残念ながら、今の政治は、個人に責任を押し付けるようなものになっているように思えてならない。

 2016年11月8日に、子どもの貧困対策のために設置した「子供の未来応援基金」の1周年を記念して、安倍首相が出したメッセージに次のようなフレーズがあった。

“あなたが助けを求めて一歩ふみだせば、
そばで支え、その手を導いてくれる人が
必ずいます。

あなたの未来を決めるのはあなた自身です。
あなたが興味をもったこと、好きなことに
思い切りチャレンジしてください。
あなたが夢をかなえ、活躍することを、
応援しています。”

 困難な状況に立たされた子どもに対して、こんなキラキラした、それでいて見殺しにするような言葉をかけることは、僕にはできない。本当に子どもたちのためを思っているのだとすれば、民間からの募金に頼るのではなく、政府が責任を持って安定的な予算を確保すればいい。誰もが「思い切りチャレンジ」できるように政治のあり方を見直していけばいい。この基金で、1年間に集まった寄付金は総額7億円弱。決して無理な話ではないと思う。

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