コーヒーの味を決定づけるのは、7割が生豆、2割が焙煎、1割が抽出と言われている。生豆自体が持っている以上のものを焙煎で引き出すことはできない。抽出も然りだ。生豆>焙煎豆>抽出であり、そのうち生豆と焙煎でコーヒーの味の9割が決まる。だからこそ、家で味わうコーヒーの味をより高めるためには、生豆と焙煎にこだわる必要がある。

 パナソニック側は、そのことをよく理解していた。質の高い焙煎機だけでは、美味しいコーヒーは作れない。そこで最初から、外部のプロフェッショナルを商品開発メンバーに加えるかたちで開発を行った。焙煎機はイギリスのベンチャー・IKAWA社の技術提供を受けて、生豆は明治39年創業のコーヒー輸入商社・石光商事株式会社にセレクトを依頼。そして、焙煎プロファイルに関しては後藤氏が担当することになった。

「石光商事は、品質の良い豆の安定供給に関して高い信頼があります。The Roastでは年間で(最大)36種類のバラエティー豊かな豆を、相談しながらセレクトさせていただきました。あとは私が、いかに生豆の良さを引き出す焙煎プロファイルを作れるかにかかっていたんです」(後藤氏)

 適切な焙煎プロファイルを作り込むために、後藤氏とパナソニックはまず、焙煎機の性能向上から着手した。

「プロトタイプの初号機では、海外製がベースとなっていることから電圧の違いなどで熱量が足りないこともあり、従来の家庭用焙煎機の域を超えず、ここからどう向上させていけばいいのか、一時は開発を諦めかけたほどでした。そこで、店で使っている業務用の焙煎機の内側で何が起こっているのかを徹底的に調査することから始めました。焙煎機内部の至る所にセンサーを取り付けて、焙煎時に時間の経過とともに温度と風量がどう変化していくのかを細かく調べていく。それを、The Roastでも再現できるように、パナソニックの技術開発チームと何度もやりとりしながら改良を重ねていく。そうして、風量と温度の微妙な制御性能を、業務用焙煎機と近い味が出せるレベルにまで引き上げていったんです」(後藤氏)

 ようやくできあがった焙煎機をもとに、次は1種類の生豆に対して2~3パターンの焙煎度を選べるプロファイル作成に着手。その作り込みの様子を、後藤氏はカメラに例えて解説してくれた。

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