今季限りで引退することが決まっている木村沙織。(写真:Getty Images)
今季限りで引退することが決まっている木村沙織。(写真:Getty Images)

 五輪に4大会連続で出場し、日本のエースとして2012年ロンドン五輪での銅メダル獲得に貢献した木村沙織(東レ)が、今シーズン限りでの引退を表明してから約3ヶ月。V・プレミアリーグはレギュラーラウンド3レグがスタートし、木村のプレーが見られる機会も残り少なくなってきた。

 その一方で、“ポスト木村沙織”として攻守にわたり今後の全日本を支えていくであろう楽しみな若手選手もいる。

 昨年のリオデジャネイロ五輪のメンバーから落選した悔しさを秘める古賀紗理那(NEC)や、リオ五輪で木村の対角に入った石井優希(久光製薬)といった選手は、当然ポスト木村候補だ。

 しかし、実績のある彼女たちを飛び越えていきそうな勢いのある高校生がいる。1月8日まで行われた全日本高校選手権(春の高校バレー)で、木村の母校である下北沢成徳高を連覇に導いたエース、黒後愛(3年)だ。

 身長180cmの高さがあり、体重の乗ったスパイクはドスンという重たい響きとともにコートに突き刺さる。日本の中では大型の選手だが、攻撃面だけでなく守備の安定感も光るオールラウンダーだ。

 黒後が1年の時、下北沢成徳の小川良樹監督は、かつての木村と比較してこう語っていた。「沙織はすごく上手だけどパワーはなかった。注意していないといつもかわしにいって、うまさに走るタイプでした。愛は体に力があって、うまさもあり、ものすごくバランスが取れた選手。サーブレシーブやフェイント処理、つなぎのプレーも実はすごく上手なんです」

 そうしたプレーの非凡さに加えて、持ち前の強いリーダーシップが、「次世代の日本のエース」という期待を抱かせる。 周囲を助ける言葉がけはもちろん、特に3年になってからは、チームが強くなるために嫌われ役を買って出た。だらしないそぶりが見えた選手には遠慮なく指摘したり、試合会場では「きちんと2列で歩いて」と注意するなど、言いづらいこともどんどん言った。

 「3年生になってから責任感というのが強くなって、言うようになったし、人に言うからには自分が人一倍やらなきゃいけないという思いでずっとやっていました。練習ではとにかく誰よりも声を出したり。成徳はあまり監督が怒ったりしないので、自分たちでどれだけ追い込めるかが勝負だから。後輩には『うわー、うるさいなこの3年生』と思われていたと思いますけどね」そう言って黒後は苦笑した。

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