日本はバブル崩壊後、デフレ脱却が長年の課題になっています。1992年と2012年を名目GDP(国内総生産)で比較してみますと、92年が約488兆円であるのに対して、12年は約475兆円にすぎません。この間、中国は約20倍、アメリカは2.5倍拡大しています。そこで12年12月に誕生した第2次安倍政権では、デフレからの脱却と富の拡大を目指して、アベノミクス「3本の矢」(1.大胆な金融政策、2.機動的な財政政策、3.民間投資を喚起する成長戦略)を打ち出しました。

 13年、14年に日銀は“黒田バズーカ”と呼ばれるほどの大規模な金融緩和を実施しました。「3本の矢」のうちの第1の矢です。円安ドル高に誘導したことで輸出企業を中心に業績が上がり、日経平均株価は2万円を超えました。

 ところが、日銀が金融緩和をして世の中に出回るお金の量を増やしても、その多くが日銀に置かれたままで世の中に回らなくなってしまいました。そこでマイナス金利政策により、この流れを変えようとしたのです。

 日銀は16年11月1日に行われた金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを「17年度中」から「18年度ごろ」と先送りしました。

 第1の矢で「今後は物価が上がる」というインフレ期待を生めば、早めに投資や消費をしようという動きが広がって経済が活性化し、賃金が上がる。賃金が上がれば、消費行動が活発になる──というシナリオを描いていましたが、実際はそうなりませんでした。

 アベノミクスで雇用環境は改善しましたが、14年4月に消費税率を5%から8%に上げたので、景気が落ち込んでしまいました。国民には将来の社会保障への不安からお金を使わない“デフレマインド”が浸透してしまい、想定以上に消費が増えませんでした。

 これに輪をかけて慎重なのが企業で、たとえ利益が上がっても内部留保に回すような状態が続いています。従業員の給料を増やすためには、企業の経営者たちが「人件費を増やす」という意思決定を下さなければならないところ、経費削減は強化されています。

 マイナス金利政策の副作用は預金金利の引き下げですが、効果もあります。期待されるマイナス金利の主な効果のひとつは、住宅ローンの金利が下がることです。

 そんな中、予期せぬ出来事が起こりました。“トランプ・ショック”です。

■「トランプノミクス」で世界経済は好転するか

 2016年11月8日に実施されたアメリカの大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利し、次期大統領に決定しました。

 国債の市場では、トランプ次期大統領による政策への期待感から、アメリカの長期金利が上昇しています。これを受けて日本でも長期金利の代表的な指標である10年物国債の利回りが上昇してきました。

 住宅ローンの10年以上の固定金利は、10年物の国債金利に連動していますので、借り換えには注意が必要です。日銀は長期金利を0%程度に誘導する政策を導入しているので、すぐに金利が上がることはないとしても、17年のうちに借り換えたほうがいいかもしれません。

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