「実は『舞台めぐり』を運営する上で欠かせないのが『地球丸ごとテーマパーク』という目標です。『聖地』には物語の舞台といったテーマが既にあるわけですが、ユーザーがその世界にいかに没入できるかを念頭に置いています。アプリを通じてデジタルでできる仕掛けだけでなく、現地でリアルに体験するアナログの部分としっかり連携することを心がけています」

 「聖地」を訪れるファンがいかに作品世界に没入できるか……「聖地巡礼」したことのある人でないとこの感覚はわかりづらいかもしれない。例えば歴史探訪する人にとって、お城の跡にある石垣はそれだけで意味を持つ。織田信長が築いた安土城を例にとれば、ここにこういう城郭があるから、史料には書かれていないが信長と家臣団はこんな暮らしをしていたのではないかと思いを巡らすヒントになるからだ。「聖地巡礼」もこれと同じで、作品には描かれていないものの、その舞台となった商店街などを歩くことで、作中の登場人物はどういう道を辿って毎朝登校しているのか、こういうものを買う時には商店街のどの店で買い物するのかなど、いろんな妄想を膨らませる。大半の人にとっては、ただの変哲もない商店街にもかかわらず、だ。

「舞台めぐり」は、ファンにとって特別な空間をあたかもテーマパークのように演出しようと心がけている。もちろん、その狙いは、作品の寿命を延ばし地域活性化に貢献することだという。製作側と地域はそれで多少は潤うかもしれないが、肝心のアプリ開発側はどうか。

「各地域からの協賛金をいただいてはおりますが、これだけではとても赤字です。ビジネスモデルはこれから具体化していくところです」(安彦さん)

 アプリ内の一部コンテンツを有料化しようとする動きもある。アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台となった茨城県大洗町では、実際に街中を探検する体験型のアドベンチャーゲーム「ガールズ&パンツァーうぉーく」を12月3日から実施している。これは「舞台めぐり」内に新設されたもので、シナリオゲーム形式となっている。これを進めていくことで、大洗町の各所を巡るというもの。単に町内を移動するだけでなく、移動先で写真機能を使って“探し物”をする場面もある。シナリオやイラスト、キャラクターボイスは完全にオリジナルとなっている。作中では登場しない商店も多く登場し、新たな「聖地」として描かれている。

 ゲームを始めるにはシリアルコードが必要で、現在は大洗町のふるさと納税「行ける!ふるさと納税」に寄付した人だけが遊べるようになっているが、年明けからこれを一般にも販売する。ふるさと納税に固執しないのは、それだけ一人でも多くの人に大洗を訪れて欲しいという狙いがあるようだ。

 安彦さんは、この取り組みを「テーマパークの有料アトラクション」と説明する。

「テーマパークを新しく作ろうとしたら、数百億のお金がかかってしまいますし、地域をテーマにしたアニメを新たに制作する場合でも一般的に1話数千万円から、1クールもので数億円もかかってしまいます。しかし、『舞台めぐり』であればはるかに少ない投資額で、地域に人を引きつける仕掛けが作れます。今後は他の地域でもこの仕組みを使い、文字通り『地球まるごとテーマパーク』を実現させていきたいと思います」

 アプリを通じ、何かの舞台となっているところでも、そしてそうでないところでも、低予算で「聖地」にできてしまう。「舞台めぐり」は新しいシステムを作りだしたといえる。そしてこれが、新しい観光や地域再生の1つのあり方と言っても過言ではないだろう。(ライター・河嶌太郎)