そんなタイでもとりわけが多いのは、イスラム教徒の住む地域だ。開祖ムハンマドが猫好きだったという伝説を見習い、ムスリムは猫をかわいがるのだという。

 タイは人口の5%がムスリムで、特に南部に行くほど多い。リゾート地として知られるピピ島もムスリムの島だが、ここはまた隠れた猫アイランドとしてもごく一部の猫マニアに知られている(私だけかもしれない)。

 ビーチや埠頭(ふとう)、市場、リゾートホテルの敷地内、そこらの道端、食堂、ゲストハウス……あらゆる場所に猫たちがいて、あやうく踏んでしまいそうになることもあるほどだ。

 住民も観光客も、この猫たちをまさに猫かわいがりしているので、タイの中でもピピ島の猫たちはとりわけふてぶてしい。天敵などこの世に存在しないとばかりに、警戒心ゼロの脱力ポーズで寝こける猫たちの姿を島の至るところで見ることができる。

 さて、そんな猫を旅先で撮ろうと思ったら、まず恥を捨てることである。猫でも子供でも同様だが、大人の目線から見下ろしては等身大の写真にはならない。ガッツリ地面に座り込み、猫と対峙(たいじ)してみたい。警戒心のない猫はレンズに鼻先をくっつけてきて落ち着かずブレてしまうので、いったん好きなだけくんくんさせて一段落してから、スポーツモードで撮るといいだろう。

 また背景が単なる壁では旅情が出ない。その国らしいもの、タイであれば寺院であるとかヤシの木、ビーチなどをバックにすると味わいが出るが、相手は生きもの、これがなかなか難しい。岩合光昭先生に秘訣(ひけつ)を教わりたいものだ。まったくのシロウトなのに写真のアドバイスなど恐縮だが、猫好きならば絶対に楽しいピピ島の旅、ちょうどいまがベストシーズンだ。年末年始の旅行にどうだろうか。(文・写真/室橋裕和)