三井住友海上のCSR推進室課長で自然塾の企画を立ち上げた浦嶋裕子さんは「昨年もアブラコウモリの観察会をやったのですが、コウモリは身近にいるのにほとんど人びとに認識されていない生きものなので、都会でも自然がすぐ隣にあると知るにはちょうどよい題材だと思いました。大人だと『気味が悪い』という人もいますが、子どもには“超音波を発信するなんてカッコいい”と大人気なんですよ」と語る。

 今回の催しではまず日中に子どもたちがバットボックスを組み立てて、そのあとコウモリについての話を聞く。話は日本のコウモリ類の保護研究に取り組む「コウモリの会」事務局の三笠暁子さんが担当。そして、夕方からはコウモリ観察だ。

 三笠さんと、NACS-Jの経営企画部プログラムオフィサーの大野正人さんがリーダーとなり2グループに分かれて駿河台を歩く。何人かが手に持つのはバットディテクター。これはコウモリが発する超音波を検出して人間が聞こえる音に変換する探知機だ。「ピシュピシュピシュ……」というような不思議な音が聞こえれば、近くにコウモリがいるのである。

 しばらくは音もせずコウモリの影も見つからなかったが、湯島聖堂近くの公園横を通っているときに三笠さんが手にしたバットディテクターが鳴りはじめ、みんなが上を見上げると「あー! いる! 飛んでる!」と参加者の子どもたちが歓声を上げた。

 夕暮れ空をバックに、アブラコウモリがかなりのスピードで何頭も舞っている。ときおりクルッと空中反転するのは、「反転した瞬間に虫をつかまえて食べているんです」と三笠さんが教えてくれた。
 
 観察していた場所は本郷通りである。会社や学校帰りの人びとは足早に駅へ急いでいる。ましてや車道を走っている車はコウモリなど眼中にないだろう。まさにこの光景こそが「すぐ隣にいるのに知られていない」象徴のように見えた。気がつきさえすれば、コウモリはすぐ観察できる野生動物なのである。

 コウモリと言えばドラキュラやバットマンなどの印象があるせいか「怖い」「不吉」と思われがちだが、こうしたマイナスなイメージを持っているのはほんの一部の国だけだ。中国では古くから蝙蝠(コウモリ)の「蝠」の字の発音が「福」と同じであることから縁起のよい生きものとされ、建物の飾りや食器、着物その他にコウモリモチーフが多用されている。北京の紫禁城でも欄干や窓枠などあちこちにコウモリモチーフを見ることができる。

 日本でもかつてはそうだったのだ。家にねぐらを作ろうものなら子孫繁栄は間違いなしと喜ばれたし、江戸時代に活躍した歌舞伎役者、七代目市川團十郎は吉祥柄としてコウモリを好み、タバコ入れや着物にコウモリの柄を入れていたほどだ。また、歌川国芳や桜川慈悲成、伊藤若冲などの人気絵師も愛らしいコウモリを描いている。

 コウモリにマイナスイメージを持っているのは、おそらく実物を見ていないからだ。この機会にぜひ一度、夕空を見上げてみてはいかがだろうか。おっと、11月をすぎるとアブラコウモリは冬眠に入る。お早めのコウモリウオッチングをどうぞ!(島ライター 有川美紀子)